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焦点:イタリアの銀行再生に暗雲、政局迷走が生むリスク

2018年06月02日(土)09時43分

 5月29日、イタリアの政治危機が、銀行業界の再生努力に長い影を落としている。写真はローマで建設中の商業・金融街。26日撮影(2018年 ロイター/Stefano Rellandini)

Valentina Za

[ミラノ 29日 ロイター] - イタリア政治の迷走が、銀行業界にも長い影を落としている。多年にわたる国内銀行の再建努力を水泡に帰し、資産価値を損ない、資金アクセスを困難にして、さらにユーロ離脱懸念が再燃する恐れがあるためだ。

単一通貨ユーロに対する疑念が復活したことで、イタリア債券市場は冷え込んでおり、2011─12年の債務危機においてイタリアの銀行セクターを震撼させた資本逃避リスクが再浮上している。

その結果、イタリア金融機関の株式時価総額は29日までのわずか2週間で5分の1以上も減少した。既成政治に反発する反主流派政党による連立政権の樹立を巡る混乱を受けた債券安に追随する格好だ。

今回の政局混迷に陥る以前は、イタリア各行は、経営を脅かす要因となっていた不良債権の削減を進めつつ、他のユーロ加盟国の銀行を上回る業績をあげていた。

景気回復軌道にある欧州で、イタリアの経済復活を好感したヘッジファンドは、同国の中堅金融機関に資金を注ぎ込む動きさえあった。

だが、イタリアのマッタレッラ大統領が21日、連立政権の経済相候補とされたユーロ懐疑派の指名を拒否したことで、再選挙の展望が一時強まった。この選挙がユーロの是非を問う事実上の国民投票となり、反主流派政党がさらに躍進するとの懸念から、株や債券売りが加速した。

「投資家の認識するリスクは急激に高まっている。それが、今回の混乱以前でさえ(一株あたり)純資産を下回っていたイタリアの銀行株価がさらに落ち込んでいる理由だ」とかたるのは、ミラノのボッコーニ大学教授で、銀行監督問題に関する欧州議会アドバイザーを務めるアンドレア・レスティ氏だ。

イタリア公的部門の累積債務は世界第3位の2.3兆ユーロ(約288兆5000億円)に達しており、銀行への直接的脅威となっている。イタリア長期金利が4年ぶりの高水準となる中で、銀行が保有する3520億ユーロ規模の国内債券に大きな損失が生じるからだ。

<不動産価格回復への期待>

今回の政局混乱は、不良債権処理を必死に進めている銀行に対して、買い手側がさらに高いリターンを要求するリスクを高め、不良債権売却が停滞することで、大幅な値引きを強いられる可能性がある。

イタリア銀行(中央銀行)は29日、今年の不良債権売却額は650億ユーロになると予想。国内金融機関に対し不良債権の削減を推進するよう促した。

イタリアが抱える不良債権額は、リセッション後のピークだった3600億ユーロから750億ユーロ減ったものの、依然として、銀行の融資残高の14%前後に相当している。

この数字は近隣スペインに比べると2倍の水準だ。スペインでは、欧州連合(EU)からの支援、堅調な経済成長、不動産価格の回復のおかげで、不良債権処理のプロセスがはるかに急速に進んでいる。

アリックス・パートナーズでマネージング・ディレクターを務めるクラウディオ・スカルドビ氏は、イタリアでは不動産価格の回復が遅れているため、英国、北欧諸国、また程度の違いはあるがフランスでも不動産バブルが進行している中で、投資家が割安なイタリア物件を好む可能性は依然として高いと語る。

ただ、イタリアの不動産市場が回復しているのはミラノやローマといった大都市や観光地に限られており、バノールキャピタルで債券部門を率いるフランチェスコ・カステリ氏は、不動産相場の回復が広がるには、もっと均質な経済成長が続くことが鍵になるという。

「不動産投資は少なくとも5年のタイムスパンで捉えられる。経済は成長していたが、中期的な展望については疑問が残る」と同氏は述べた。

<中堅行の苦境>

バンコBPM、UBIバンカ、BPERバンカなど中堅規模の銀行は、インテーザ・サンパオロやウニクレディトなどの大手行に比べ不良債権の処理に手間取っているため、政局の混乱による影響を受けやすいと見られている。

最悪の打撃を受けた銀行には、イタリア10位のクレディト・バルテリネーゼが含まれる。

同行は、3月の総選挙前に新株発行で時価総額を8倍に膨らませることに成功しており、その後も株価が35%上昇していた。

だが、総資本に対する国債保有比率が最も多い銀行の1つであり、不良債権の負担も大きい同行の株価は、新規発行株式を発行した際の0.10ユーロに比べ、11%も下落している。

資本調達コスト上昇によって最も大きなリスクにさらされるのはイタリア国内の中小金融機関だとアナリストは警告する。イタリア国内銀行はホールセール資本市場を事実上利用できず、再び利用できるようになるまでには長い時間がかかるだろう、とトレーダーは予想する。

イタリアで最強の銀行インテーザ・サンパオロは総選挙後、スワップレートを77ベーシスポイント上回る利率で10年債を発行したが、現在そのスプレッドは200ベーシスポイントにまで拡大しており、条件悪化を浮き彫りにしている。

大半の銀行は潤沢な流動資産を保有しているため、タイトな調達市場は喫緊の課題ではないが、国有のモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナとバンカ・カリジェが予定するハイブリッド債発行によるTier2自己資本の再構築計画には疑問が生じている。

カリジェの広報担当者によれば、同行のフィオレンティーノ最高経営責任者(CEO)は26日、劣後債発行計画について質問され、政治リスクによって市場が麻痺していると述べたという。

モンテ・デイ・パスキはコメントしなかった。

(翻訳:エァクレーレン)

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