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焦点:金融危機から10年、アメリカ人が失った株式投資熱

2018年03月27日(火)17時23分

 3月18日、米国の家計資産を16兆4000億ドル(約1746兆円)も減らした金融危機の幕開けから10年を経た今、米国民はまだ自国の株式市場に対して以前ほどの情熱を抱くには至っていない。ニューヨーク証券取引所で14日撮影(2018年 ロイター/Andrew Kelly)

David Randall and April Joyner

[ニューヨーク 18日 ロイター] - 情報テクノロジーのフィールドマネジャー、ルーク・トーマスさん(44)は、20代前半に米株投資を始めた。「わずかな元手を大きく膨らませる方法」を学べるのではないかという魅力を感じたからだという。

トーマスさんは当時、資金の大半を店頭市場で限られた小型株に投じていた。しかし、2008─09年のグローバル金融危機のとき、小型株で構成されるラッセル2000指数が6割以上下落するのを見て怖じ気づき、ポートフォリオの多角化を進めた。

現在は、大型株や不動産、オプション、そしてビットコインなど仮想通貨にまで投資を広げ、複数のアセットクラスにリスク分散している。

「若い頃なら、資金の9割を仮想通貨に突っ込んで、いわゆる『1つにすべてを賭ける』状態になっていただろう。だが今のやり方なら、過度な(リスクに)さらされることはない」と彼は言う。

思い切った賭けに出ることをためらっているのはトーマスさんだけではない。

米国の家計資産を16兆4000億ドル(約1746兆円)も減らした金融危機の幕開けから10年を経た今、米国民はまだ自国の株式市場に対して以前ほどの情熱を抱くには至っていない。

途切れなく9年も強気相場が続き、S&P500<.SPX>は2009年の底値から310%近くも上昇しているにもかかわらず、米国民による個別銘柄の保有株数は減り、株式全体に対する投資額も減っている。

投資銀行ゴールドマンサックスの調査によれば、米国の家計による株式市場への投資総額は2007年に比べて9000億ドル減っており、最大の市場牽引役は米国企業による買いとなっている。

一方、フィデリティの調査によれば、401k(確定拠出年金)プランに関しても、投資家が保有するファンドのうち株式だけに投資するファンドは平均52.4%であり、2007年の64.7%に比べ減少している。

その代わり、投資家の保有率が33.2%に達しているものが、定年退職予定時期に合わせて株式、債券、現金を組み合わせる「ターゲット・デート・ファンド(TDF)」であり、2007年の同ファンド保有率14.5%から2倍以上に膨らんでいる。

株価回復により投資家がおおむね利益を享受しているにもかかわらず、株式への投資資産は減少。フィデリティによれば、401kの平均運用残高は2017年末の時点で10万4300ドル。これは2008年末の平均4万9000ドルに比べ112%増加しており、危機前である2007年末の6万7600ドルに比べても54%増加している。

「以前と同じ程度の関心やアニマルスピリットが見られないというだけの話だ」。ノースカロライナ州ラレーに本拠を置くキャップトラスト・ファイナンシャル・アドバイザーズの投資リサーチ担当ディレクター、マーク・パチョーネ氏はそう語る。

2500億ドル以上の資産を運用しているキャップトラストのパッチョーネ氏によれば、顧客は金利やインフレ率の上昇がポートフォリオに与える影響の方を、はるかに気にしているという。

「クライアントは債券市場が弱気に転じることを非常に懸念しており、ほぼすべての関心をそこに注いでいる」と彼は言う。

<銘柄選択の時代は終わったのか>

株式という形で保有される資産が全体として減少しているだけでなく、株式市場に投入された資金の中でも、個別銘柄や選択された銘柄に投資するファンドよりも、もっと範囲の広い指数に連動するインデックスファンドや上場投資信託(ETF)に流れ込む比率が高まっている。

こうした動きの背景には、プロのファンドマネジャーのほぼ全員が金融危機を予見できなかったことで、クライアントからの信頼を失ってしまった状況がある。フィナンシャルアドバイザーはそう説明する。

「インデックス投資は、かつてないほど主流の座にある。アクティブ運用は危機の際に損失を防げず、過去10年にわたって、インデックス投資の運用実績を下回ってきたからだ」と語るのは、ロサンジェルスに本拠を置く運用資産189億ドルのケイン・アンダーソン・ラドニックでシニア資産アドバイザーを務めるマット・ハンソン氏だ。

ファンド調査会社モーニングスターによれば、ミューチュアルファンドとETFの合計のうちパッシブファンドが占める比率は、2008年初頭のわずか8%に対し、現在では約46%に達している。

投信情報会社リッパーのデータによれば、パッシブ運用の株式投信とETFは、2007年には707ファンド、運用資産総額1兆2000億ドルだったが、現在では1400ファンド、資産総額は5兆4000億ドルに膨らんだ。

こうしたパッシブ投資に向かう流れによって、インデックスベースのファンドを提供しているブラックロックと株式非公開のバンガードが、世界の2大資産運用会社となっている。

ガベリ&カンパニーでアナリストを務めるマック・サイクス氏によれば、イートレード・フィナンシャルや米TDアメリトレードなどの証券会社では、個別株式銘柄の取引よりもオプション取引の方が急速に伸びているという。一方、ニューヨーク証券取引所のデータによれば、同取引所の月間株式取引量は、2007年に比べ2017年は43%少なかった。

1990年代に起きたドットコム・ブーム時に活発だったデイトレードや、2000年代半ばの転売目的の住宅投機に代わり、株式市場ではもはや得られないと思われる並外れたリターンを得るために、個人投資家が期待を寄せるのは、ビットコインなどの仮想通貨だ。

自身も起業家で、テクノロジー分野の新興企業へのアドバイスを提供しているニューヨーク在住のレイラ・タバタバイ氏は、約1年半前にICO(イニシャル・コイン・オファリング)投資を始めたという。

現在、彼女が保有するポートフォリオの半分以上は仮想通貨で占められており、より大きな利益チャンスを与えてくれると期待している。

「株式よりも仮想通貨の方が好ましい気がするのは、個人投資家でもより多くの機会を得ることができるように思えるからだ」とタバタバイ氏は言う。「10年前、15年前に株式が果たしてきた役割を、いま仮想通貨が引き受けようとしている」

(翻訳:エァクレーレン)

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