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アングル:ハリウッド狙う中国不動産王が語る「切り札」

2016年08月31日(水)08時02分

 8月25日、中国の大富豪で不動産王である王健林氏が、エンターテインメント産業の大物へと変貌を遂げた。だが本人に言わせれば、映画界への進出は完全に偶然だったという。写真は23日、北京にてロイターとのインタビューに臨む王氏(2016年 ロイター/Thomas Peter)

Matthew Miller and Shu Zhang

[北京 25日 ロイター] - 中国の大富豪で不動産王である王健林氏が、エンターテインメント産業の大物へと変貌を遂げた。だが本人に言わせれば、映画界への進出は完全に偶然だったという。

「選択の余地がなく、そうせざるを得なかった」と王氏はロイターとの最近のインタビューで語った。

王氏が率いる中国不動産大手ワンダ・グループ(大連万達集団)は、米映画制作会社レジェンダリー・ピクチャーズと、米映画館チェーンAMCエンターテインメント・ホールディングズを手中に収めている。

2006年、ワンダ・グループは、国内各地で建設を進めていた巨大ショッピングモールで映画館を運営しようと提携相手を探していた。

王氏が最初に提携を打診したのは米メディア大手のタイムワーナーだった。だが、タイムワーナーは外資規制に引っかかり、中国から撤退を余儀なくされていた。これとは別に、国営の企業グループである上海メディア・グループからも提携を断られた。

王氏は今や、グループのシンボルである中国149カ所の「万達広場」を擁する世界最大の商業不動産デベロッパーであるだけでなく、今回の契約が締結すれば、4大陸で1万3000スクリーン以上を支配する、世界最大の映画興行会社になる。

「ジュラシック・ワールド」や「バットマン」シリーズの「ダークナイト」など、ヒット映画を共同製作したレジェンダリーの買収は、米中の映画関連案件としては過去最大であり、ハリウッドのメインプレーヤーになるというワンダ・グループ会長の野望に向けた一歩となった。

「上海メディア・グループは、こんな優良企業をあれほど安く買収できたのに、と本当に後悔しているに違いない」と王氏は言う。中国人民解放軍の参謀将校を務めたこともある同氏は28年前、地方の建設会社を買収し、100万元(約1500万円)を借り入れて住宅建設事業に乗り出した。

<野心的なスタジオ建設>

ワンダ・グループの文化事業部門には、急成長する観光事業、テーマパーク経営、スポーツ事業などが含まれており、今年は最低でも3割増収の見込みで、700億元(約1兆0700億円)に達する可能性もある、と王氏は言う。

ワンダ・グループでは、文化事業の収益を2020年までに2倍以上の1500億元にしたいと考えている。王氏によれば、この目標は早期に達成できる可能性もあるという。

ワンダ・グループはスペインの有名サッカークラブであるアトレチコ・マドリードやスイスのスポーツマーケティング会社インフロント・スポーツ&メディアに出資しており、スポーツイベントへの関与を深めていくことを狙っている。

「特にここ3─4年間のスピードは私の期待を上回っている。中国経済が減速しているというのに、エンターテインメント、スポーツ、観光への消費者の需要がこれだけ強くなるとは考えていなかった」と王氏は語る。「この成長を維持できれば、ワンダはエンターテインメント企業として世界のトップ3、あるいはトップ5に入ると思う」

中国の映画興行収入は2015年に440億元に達し、来年末には米国における興行収入を抜くと予想されている。

王氏とその映画界への野望についての著書のある米ハーバード大経営大学院のウィリー・シー教授(経営実践論)は、「王氏はいくつかのトレンドが交わる部分でうまく波に乗っている」と評する。

その野望を最も良く反映するのが、総工費80億ドルの映画スタジオ・テーマパークの不動産開発事業となる青島「東方影都(オリエンタル・ムービー・メトロポリス)」だ。竣工は2018年4月を予定する。

王氏によれば、このスタジオでは製作予算1億ドル以上の作品を年に5本以上、その他もっと小規模な国内作品も手掛ける予定だという。

ハリウッドや他の映画プロデューサーにとっては、このスタジオを利用することで、中国の厳しい輸入規制を回避し、中国市場へのアクセスを得ることができる、とシー教授は指摘する。

中国公開を許される外国映画は年間34作品であり、収益分配制度の下で、海外の映画製作会社が得られるのは興行収入の25%である。また上記のうち14作品は、3DやIMAXなどの「ハイテク」形式の作品でなければならない。

王氏はさらに、中国東方航空<600115.SS>にロサンゼルス・青島便の毎日運航を開始させる一方、「東方影都」に計画中の防音スタジオ50室の利用をプロデューサーたちに促すため、補助金を提供する予定だ。

「これが私の切り札だ」と王氏は言う。

<大胆な買収>

ワンダ・グループが当面、世界各国のエンターテインメント分野における買収攻勢をペースダウンする可能性は低い。

王氏によれば、米国において、20億ドル規模に上る、製作部門以外の映画関連買収を発表する予定だという。

さらに、王氏はハリウッド「6大スタジオ」のいずれかの買収も視野に入れており、パラマウント・ピクチャーズがその候補ではないかと目されている。来年には映画製作への共同出資も開始する準備を進めている。

とはいえ王氏も、自身の試みがすべて成功しているわけではないと認めている。ワンダ・グループは6月、2014年に観光・ショッピング施設開発の一環として建設された中国中部の武漢にある映画テーマパークを、改装のため閉鎖すると発表した。このテーマパークの来場者数は、ここ数カ月減少しつつあった。

「これは学習プロセスだ」と王氏は語り、米ディズニーなど西側諸国のテーマパーク開発事業者に挑戦していく意志を明らかにしている。

「私たちはこの業界では新参者だ。何を参考にしていいのか分からない」と同氏は言う。「ワンダの歩みはまったく独自のもので、前進しつつ変化を遂げている。これは参入の代償だ。大手の不動産企業がサービス企業、文化企業への変身を成功させた例などない」

だが中国一の富豪である王氏は、失敗に耐える余裕があるという。

「6大スタジオの1つを50億ドルなり80億ドルで買収して、それを丸ごと失ってしまったとしても、ワンダ・グループが倒産することはないだろう」と王氏は言う。「大胆にやらなければ成功はない」

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
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