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焦点:原材料安でも進まぬ値下げ、人手不足や高級化で「デフレ」抑制

2015年11月16日(月)18時26分

 11月16日、商品・燃料相場の下落、中国景気の減速など世界経済に「デフレ」圧力が高まる中、食品・外食各社などが値下げに二の足を踏んでいる。人件費などの上昇に加え、「プチ贅沢」に支えられた値上げ戦略が効果をあげているためだ。写真は、都内の百貨店、7月撮影(2015年 ロイター/Thomas Peter)

[東京 16日 ロイター] - 商品・燃料相場の下落、中国景気の減速など世界経済に「デフレ」圧力が高まる中、食品・外食各社などが値下げに二の足を踏んでいる。人件費などの上昇に加え、「プチ贅沢」に支えられた値上げ戦略が効果をあげているためだ。

ロイター調査によると、来年度にかけ値下げを予定しているのは回答企業の1割程度。コストアップと高級化需要の高まりが、デフレ対応に傾斜しかねない企業心理にブレーキをかけている。

<激しい人材争奪戦、研修コストも上昇>

ロイターが資本金10億円以上の中堅・大企業400社を対象に10月26日から11月6日に行った調査によると、下期から来年度にかけて値上げを予定している企業は回答企業250社の12%にとどまり、今年4月調査の4割程度より大幅に減少。価格据え置きの企業は78%、値下げ予定の企業は10%だった。

日本企業がデフレ戦略に傾いていない理由の一つは、国内で続いている人件費の上昇だ。特に、人件費率の高い外食企業にその傾向は強く、松屋フーズ <9887.T>は、2016年3月期の売上高人件費率を期初計画の34.4%から34.6%に修正した。前年比からは4.7%増加しており、売上高の2.1%増計画を大きく上回っている。

同じ牛丼業界の吉野家ホールディングス <9861.T>の河村泰貴社長は、主原料の牛肉価格がピーク時の半値程度に下がっているものの、恒常的な値下げを実施するような状況にはないと話す。同グループの冬の定番商品「牛すき鍋膳」も、昨年と同じ並盛630円という価格設定だ。牛肉以外のコストが上がっており、なかでも「求人費用は年々上がっている」と人件費の増加に懸念を示す。

リクルートジョブズによると、三大都市圏の9月アルバイト・パート募集時平均時給は、7カ月連続で上昇、4カ月連続で過去最高を更新している。

「アルバイトやパートを集めることに苦労しているほか、新卒採用もメーカーに負け始めている」とサイゼリヤ <7581.T>の堀埜一成社長はいう。各社による争奪戦で従業員の入れ替わりが早く、サービスの質を維持するための研修や教育費、福利厚生費も増加していると説明する。

メーカー側も、現段階では値下げに慎重な姿勢だ。明治ホールディングス <2269.T>では、足元で想定より原材料価格の上昇は小さいとする一方、「再び為替が円安に動き始めている。来年の原材料コストの見通しについて、決して楽観的なことは考えていない」(塩崎浩一郎・執行役員)と、調達コストが上昇に転じる可能性を指摘する。

<消費者に浸透した値上げ戦略>

企業が値下げに慎重なのは、今年前半にかけての一連の値上げでも販売数量が落ち込まなかった商品があったことも一因だ。値段が高くても付加価値を評価すれば購入するという「プチ贅沢」、「プレミアム志向」が根強く残っている。

15年1月出荷分から主力商品「カップヌードル」などを5―8%値上げした日清食品ホールディングス <2897.T>。値上げにもかかわらず、4―9月期で、カップヌードル、シーフードヌードル、カレーヌードルの主力3品の販売数量は前年同期比10%伸びた。

カップヌードルの値上げは08年以来のこと。この時には、売上げは大きく減少し、別の商品で数量確保に努めたという。

安藤徳隆専務は「08年に比べて、値上げ浸透はかなりスムーズに進んだ」と話す。「具材充実」に加え、「値上げが相次いだ外食に比べて安く、価格に比べて価値があったと消費者が判断した」と分析する。

さらに、健康ブームで拡大したカカオ含有量の高いチョコレートや機能性の高いヨーグルトなどは、通常商品よりも価格が高いにもかかわらず、売り上げを伸ばし、「消費者の二極化」(ロッテの河合克美専務)を鮮明に映し出した。

政府は、来年春も賃上げを実施するよう企業に要請しており、高付加価値化路線を支える2極化消費がさらに続く可能性もある。

<デフレ圧力は拡大、局面の転換も>

9月から10月にかけて、牛丼各社が実施した期間限定値下げは大きな売り上げ増加につながった。年明けからは業務用小麦の出荷価格が引き下げになるなど、世界的なデフレ傾向に企業の価格戦略が揺れ動く局面も予想される。

SMBC日興証券アナリストの沖平吉康氏は「半年から1年後には、食品業界全般に原料安を引き金としたデフレ局面を迎えるリスクが懸念され始めている」と指摘する。来年度は、2010年度以来6期ぶりの原料安局面を迎える可能性が高まっている。

日銀が12日に発表した10月の国内企業物価指数では、食料品・飼料の円ベースでの輸入物価は前年比0.3%の下落となり、9月の0.2%下落から下落幅を拡大させた。バークレイズ証券では「川下では食料品価格の上昇が物価上昇を牽引している。そのけん引力が鈍化するリスクを見極めるためにも、食料の輸入物価には今後も注目したい」としており、来年は、企業の価格戦略が注目される年となりそうだ。

*写真を差し替えて再送しました。

(清水律子)

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