ニュース速報

アングル:天安門事件30年で中国厳戒、「AI検閲」フル稼働

2019年06月01日(土)10時02分

Cate Cadell

[北京 26日 ロイター] - 中国のインターネットにとって最もセンシティブな日である6月4日が近づいてきた。北京の天安門広場で、民主化を求める抗議活動を行った人々が武力制圧され流血の大惨事となった天安門事件の30周年記念日を前に、中国では自動検閲システムがフル稼働している。

中国のインターネット企業の検閲担当者らによると、1989年の天安門事件に関連するコンテンツを検出・ブロックするツールの正確性は、機械学習や声紋・画像認識技術に支えられ、過去比類のないレベルに達しているという。

メディアとの接触は禁じられているため匿名で取材に応じた北京字節跳動科技(バイトダンス)の検閲担当者は、「私たちは時折、人工知能(AI)は外科用メスで、人間は『なた』のようなものだと言っている」と語った。

バイトダンスの従業員2人によると、天安門事件の検閲は、台湾やチベットといった他のセンシティブな話題と同様、現在は大半が自動化されているという。

天安門事件にまつわる日付、画像、名前などを含む投稿はすべて自動で拒否される。

従業員の1人は、「私が4年前にこの仕事を始めたときは、天安門広場の写真を(手動で)排除することもあったが、現在のAIは非常に正確だ」と語った。

取材に応じたバイトダンスや微博(ウェイボー)、百度(バイドゥ)のアプリの検閲担当者4人によると、彼らが1日に検閲するコンテンツは5000─1万件、もしくは1分に5─7件で、そのほとんどはポルノか暴力的な内容だという。

担当者の1人は、AI検閲の技術は進化したものの、時には天安門広場で撮った観光客のスナップ写真もブロックされてしまうことがあると語った。

バイトダンスとバイドゥはコメントの求めに応じず、ウェイボ―からは返答が得られなかった。

<ネット上は厳戒態勢>

30年経った今も、民主化デモを率いた学生らが政府によって武力制圧された天安門事件の話題は、中国国内ではタブーとなっている。正確な死者数は明らかになっていないが、人権団体の予測や目撃者の証言は、数百人から数千人と幅広い。

6月4日は当局とのいたちごっこの日でもある。

明らかに事件を連想させる言葉は即座にブロックされるため、ソーシャルメディア上では検閲を避けるためにどんどん曖昧な言葉を使うようになったからだ。何年かの間は、「今日」という言葉すら検閲を通らなかったほどだ。

2012年6月4日には、中国で最も注目される株価指数の上海総合指数が、事件の年月日を思い起こさせる64.89ポイント安となったことも話題になった。

アナリストらは偶然との見方を示したが、それでもマイクロブログなどでは「上海株式市場」や指数が、他の曖昧な言葉とともにブロックされた。

企業の検閲ツールが精密化する一方で、アナリストや研究者、そしてユーザーらは、記念日や政治イベントを控えた神経質な時期には、強圧的な政府方針により幅広い話題のコンテンツが一挙に検閲されることになったと指摘する。

6月4日を控えた現在、ソーシャルメディアでは性的少数者(LGBT)グループや労働活動家、環境活動家や非政府組織(NGO)も検閲の標的になっているという。

検閲技術の性能向上は、 中国サイバースペース管理局(CAC)が発表した政策でも急務とされていた。CACを設立し、公式に率いているのは、これまでインターネット上の思想の取り締まりを強化してきた習近平国家主席だ。

CACは取材に応じなかった。

去年11月、CACは中国のオンライン上で異議を唱える人々を排除することを狙った新しい規則を導入。「中国共産党の歴史を歪曲する」行為について、個人およびプラットフォームが処罰対象となった。

新しい規則により、「社会的な動員」や「世論を大きく動かす」ために使われる可能性のあるインターネット上のプラットフォームは、審査報告書や査察を要求されることになった。そして、本名やネットワーク・アドレス、アクセスした時間、チャットや音声通話の履歴を含んだ情報の提供を求められる。

あるCAC当局者はロイターに対し、最近のオンライン検閲の強化の理由が来月の天安門事件の記念日である可能性は「非常に高い」と語った。

「企業とも常に連絡を取り続けている」と語るこの人物は、天安門について直接言及せず、「6月の神経質な時期」と表現した。

各企業はほぼ独自に検閲を行っており、CACから指示を受けることはほとんどないが、「社内の倫理部署と共産党部署で」ガイドラインを策定する責任があると、この当局者は語った。

<秘密の事実>

習近平氏がインターネットの引き締めを強める中、情報の流れは共産党中央宣伝部と国営メディアのネットワークに集約されてきた。検閲担当者らは、これにより主要な政治ニュース、自然災害や外交を含む一部トピックの検閲にかかる負担は軽減されたと語る。

あるバイドゥの従業員は、「ニュースであれば、ルールは簡単だ。国営メディアが最初に報じたもの以外は公認の情報ではない。特に、指導者層や政治的な話題だ」と話し、「われわれは、1989年の詳細を含むキーワードの基本的なリストを渡されているが、それらは(AIが)難なく見つけることができる」と付け加えた。

コンテンツを適切に検閲できなかった場合の罰則は厳しい。

CACによると過去6週間で、網易(ネットイース)のニュースアプリ、騰訊控股(テンセント・ホールディングス)<0700.HK>のニュースアプリの天天快報、そして新浪などの人気サービスが、数日から数週間にかけてサービス停止となった。期間中、これらのサービスはアプリストアに表示されず、オンラインでも閲覧ができなくなる。

センシティブな事柄についてオンラインで情報を広めたインターネットユーザーや活動家への罰則は、罰金から懲役刑までがある。

中国では、ソーシャルメディアのアカウントは本名と国民1人1人につけられた「公的身分番号」に紐づけられることが法で定められている。当局が求めれば、企業はユーザー情報を提出する法的義務がある。

インターネットユーザーのアンドリュー・フーさんは、「知っていることを共有してはいけないと理解するのが当たり前になった」と語る。「それらは秘密の事実だからだ」

北京で働くフ―さんは2015年、出身地の内モンゴル自治区で3日間拘留された。大気汚染についてのコメントを関係のない写真と合わせてウェイボ―に投稿したのだが、その写真は天安門事件をほのめかすものだったのだ。

当局とのこれ以上のトラブルを避けるために本名のフルネームは明かせないというフーさんは、休暇で実家にいる間に警察官が現れたときには驚いたが、怖くはなかったという。

「当局者らも、インターネットユーザーと同じくらい困惑している。実際の取り締まりが不規則であっても、圧力を強めることが簡単なやり方だと、彼らはわかっている」

(翻訳:宗えりか、編集:山口香子)

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条

ワールド

EU産ブランデー関税、34社が回避へ 友好的協議で

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 自由取り戻すと
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中