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インタビュー:異次元緩和の副作用膨大に、銀行統合で解消せず=西日本シティ会長

2019年03月20日(水)02時46分

[福岡 19日 ロイター] - 西日本シティ銀行の久保田勇夫会長は、ロイターのインタビューに応じ、今年4月で導入から6年間が経過する日銀の異次元の金融緩和策について、異例の政策が長期間続くことで「副作用の蓄積が膨大になっているように感じる」と述べた。イールドカーブをコントロールする政策は伝統的な銀行モデルに悪影響を及ぼし「銀行の統合では問題が解消されない」との見方を示した。

久保田氏は1966年に旧大蔵省入省。国際金融局次長などを歴任し、1999年に国土事務次官。2006年に西日本シティ銀の頭取に就任し、14年から会長を務めている。日銀の黒田東彦総裁は久保田氏より1年遅く、1967年に旧大蔵省に入省した。

インタビューは18日に英語で行われた。主なやり取りは以下の通り。

――黒田総裁のもとでの日銀の金融政策の評価は。

「彼は2%の物価目標をおおむね2年で達成することができるし、またすべきでもあると勇気をもって言明した。自分の意図を明確に示し、強くその政策にコミットしていることを表明したのは良かった」

「率直に言って、物価の伸びは期待されたほど速くはなかった。現在、もし彼がオーバーシューティング型へのコミットメントにこだわるなら、少なくとも今後2―3年は、現行の異例の緩和政策が続くだろう」

「日本では、為替レートは事業判断にある意味、重要過ぎるほどの影響がある。黒田総裁の政策がもたらした円安は、肯定的に評価されるべきだ。第2のポイントは、この緩和政策が需要を呼び起こしたことだ。この異例の緩和政策は経済成長に貢献した点は、指摘されることは少ないが、これらの2つの側面をわれわれは黒田総裁の政策がもたらした資産だとみなすべきだ」

「一方で、様々な方面で重要な負の効果が出てきている。異例の緩和政策が導入されて6年になる。欧州では、低金利政策が一般に銀行の業績や金融システムにネガティブな影響をもたらすと認識されている。また、年金基金は金融資産に一定のリターンがあることを前提としているため、非常に低い金利は社会保障制度、特に年金制度をも、ある程度脅かす。こうした認識は欧州には存在するが、日本にはあまりない。金融政策を評価する際には、こうした問題をよく検討する必要がある」

「日本では、物価への影響にだけ焦点が当てられがちだ。最近は、異次元の緩和が銀行セクターや金融システム、そして年金システムにもネガティブな効果をもたらしているとの理解が高まりつつある。これらの負のインパクトが認識されるのは、日本では多少遅い傾向がある」

――異次元の緩和政策の問題点は。

「この種の緩和政策についての問題は、継続期間だ。導入から6年が経ち、副作用の蓄積が膨大になっているように感じる。ただ、日銀が(現行政策を)やめるべきかどうかや、その政策が正しいかどうかについて言及する立場にない」

「欧州では量的緩和を導入し、その後、マイナス金利を導入した。状況は日本と似ているが、イールドカーブには手を付けなかった。欧州では長期金利は市場の調整力に委ねた。しかし、日本ではイールドカーブコントロール政策のもと、長期金利もコントロールしている。日本は当局が短期金利、長期金利、流動性のいずれも管理している。どこに市場が機能する余地があるのか疑問だ」

「現在の政策で日銀は長期金利をゼロパーセントに、短期金利はマイナス0.1%にしようとしているが、その差は非常に小さい。これは見方を変えれば、この政策は、金融機関の収益を圧迫していることを意味する。日銀が意図するとせざるとに関わらず、金融機関の資源は圧迫される。こうした問題は、銀行の統合では解消されない」

「マイナス金利は、伝統的な銀行モデルに悪影響を与えているからである。問題はその蓄積だ。短期間の、緊急の対策としてならよいが、しかし、その政策が続けば続くほど副作用は累積する」

*表現の一部を修正して再送しました。

(木原麗花、和田崇彦 編集:田巻一彦)

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