コラム

麻生発言のように「戦争になる」ことから逆算する「手口」

2022年09月07日(水)13時36分

戦争を最終的な帰結として、そこから逆算的に様々な思想や政策を評価していく手法は、ときに評価すべき思想や政策を正当に評価できなくなる。しかしそれは、「安全保障」という議論そのものにも潜んでいるのだ。「安全保障」の議論はまず、何もしなければ破滅的な戦争が起こる、ということを前提とする。そしてその結末を回避するために、軍事力の強化や軍事同盟の締結、武力行使など、あらゆることをなすべきだと主張される。

しかしその一方で、「安全保障」の議論は、戦争の勃発を前提としていることにより、あらゆることを戦争の徴候を見出してしまう。極端な場合、スパイの危険性を理由に外国人観光客や留学生流入を制限しようとしたりする。もちろん「安全保障の専門家」はそのような乱雑な議論はしていないだろうが、戦争は起こるということを前提にしているので、戦争の準備をしないという選択肢は最初から排除されてしまっている。

これはある意味では終末論思想の考え方に似ている。終末論思想は終末が起きることを前提にしているため、地震や疫病など、あらゆる現象を終末と結びつけてしまう。そして人間にできることは終末の準備をすることだけであり、あるいは、せいぜい終末を「抑止」つまり「遅らせる」ことしかできないとされる。

しかし、世界とはそのような決定論によって定められるものではなく、様々な可能性にあふれている。「戦争が起きるぞ」という麻生発言のようなものが出てきたとき、私たちはつい「安全保障」の言葉で反論したくなる。しかし、それこそがまさに、私たちの思考を戦争の必然性へと凝り固まらせる「手口」なのだ。このような戦争の必然性に対しては、私たちは平和の可能性をもって対抗しなければならない。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米政権、キューバとの外交「既に進行中」=レビット報

ビジネス

リオティント、グレンコアとの合併協議打ち切り 巨大

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、雇用指標軟調でレンジ内

ワールド

トランプ氏、6日のイランとの協議注視 合意可能か見
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新世論調査が示すトランプ政権への評価とは
  • 2
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 5
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 6
    「反トランプの顔ぶれ」にMAGAが怒り心頭...グリーン…
  • 7
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 8
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 9
    関税を振り回すトランプのオウンゴール...インドとEU…
  • 10
    習近平の軍幹部めった斬りがもたらすこと
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story