コラム

「カナダの世紀」がやってくる

2011年01月14日(金)17時35分

金融危機から立ち直れないアメリカが研究し始めた『カナダの世紀』

虎の巻 金融危機から立ち直れないアメリカが研究し始めた『カナダの世紀』

cleardot.gif

 本誌(米フォーリン・ポリシー)は昨年夏、カナダの自由主義改革の成功を称える記事を掲載した。繁栄しても破綻はしない自由主義経済モデルかもしれないからだ。

 1990年代初めのカナダは、ちょうど今のアメリカや欧州各国さながらに巨額の財政赤字と膨れ上がる国家債務に苦しんでいた。その窮状は、1994年にウォールストリート・ジャーナル紙で「実状は第3世界」と揶揄されたほど。だがその後、徹底した歳出削減と社会福祉制度改革によって財政再建と経済の活性化に成功。今やカナダは、21世紀のグローバル経済のリーダーになりつつある──。新著『カナダの世紀』の共著者でもあるブライアン・リー・クローリーら3人は、記事の中でそう主張した。

 イギリスの庇護と隣国アメリカの発展に牽引されてカナダが繁栄を謳歌していた1904年、ウィルフリッド・ローリエ首相(当時)は「19世紀はアメリカの世紀だったが、20世紀はカナダの世紀になる」と予言した。その予想は大外れだったが、クローリーらに言わせれば、「ローリエは間違っていなかった。100年早すぎただけだ」。

■カギは小さな政府と金融規制

 その通りかもしれない。米大手新聞社マクラッチーは先日、カナダ経済が金融危機のダメージを受けることなく安定している理由を検証する記事をウェブに掲載した。クローリーらが指摘した歳出削減と社会福祉制度改革と並んで、厳格な金融規制がカナダ経済復活の鍵だと論じている。


 カナダの銀行は、1930年代の世界大恐慌でも、最近のアメリカ発の経済危機でも一行たりとも破綻していない。住宅ローンの滞納率も1%以下だ。アメリカの現状と比較すると、これは注目に値する。アメリカでは住宅ローン融資の焦げ付きが経済危機の引き金を引いた末に、政府がウォール街の大手金融機関に前代未聞の大型救済を行い、300以上の小規模銀行が破綻する羽目になった。

 カナダはなぜ、そうした事態を避けられたのか。

「単純すぎると思うかもしれないが、返済できる人に融資するのが銀行ビジネスだ、とある銀行のCEOが言っていた」と、カナダ銀行協会のテリー・キャンベル副会長は語った。

 カナダの保守的な(確かに非常に保守的だ)金融規制システムには、学ぶべき点が多い。ローン審査基準は非常に厳格で、不況時の損失に備える銀行の預金準備高もアメリカよりずっと多い。

 さらにカナダでは、自宅の売却益に対する税控除はあるが、ローン利用者が支払う金利に対する大型の税控除はない。それでも、住宅所有率はアメリカと同等かそれ以上で、住宅ローン金利の税控除がないために人々は急いでローン返済を済ませようとする。


 

「カナダの世紀」の立役者がカナダ版スーパーマンのキャプテン・カナダだったというなら真似しようもないが、この場合は謙虚に教えを乞うべきかも。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2011年1月13日(木)11時20分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 14/1/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ、和平交渉で強硬姿勢示唆 「大統領公邸攻撃」でウ

ワールド

ウクライナ支援「有志連合」、1月初めに会合=ゼレン

ワールド

プーチン氏公邸攻撃巡るロの主張、裏付ける証拠なし=

ワールド

米軍のウクライナ駐留の可能性協議、「安全保証」の一
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story