コラム

ウィキリークス「便乗犯」ウォッチ2:ロシア

2010年12月14日(火)16時48分

 ウィキリークスの機密暴露に便乗したでっち上げ情報で外交上の策謀を巡らせているのは、先週紹介したパキスタンだけではなかった。懸念した通りだ。ラジオ・フリー・ヨーロッパのクレア・ビッグは次のように報じている。


 たとえば09年9月、国連総会でイランのアハマディネジャド大統領がイスラエルやアメリカを非難する演説を始めると、西側の外交官が一斉に退場した有名な一件。ロシアの週刊誌ラスキー・リポーターは、この退場劇は偶発的なものではなくアメリカ政府によってあらかじめ仕組まれたものだと報じた。

 同誌は12月2日号でウィキリークスが公開した文書を引き合いに出し、アハマディネジャドの演説のどの部分で退出すべきかなど、細かい点までアメリカ政府がEU代表団に指示していたと主張している。もし本当なら、米政府のメンツは丸つぶれになりかねない。

 だがウィキリークス文書に関する他の報道と違ってラスキー・リポーターは、その主張の根拠となる文書を具体的に挙げていない。ウィキリークスのデータベースを隅から隅まで探してもそのような外交公電は見つからない。同誌は政治的な動機から、ウィキリークスに便乗してニセ情報をバラまいているのではないかと一部の専門家は指摘する。


■ロシアにしてはウソが小さい

 よくこんなウソを見つけたと思う。だがもし私がロシア政府の宣伝担当者なら、もう少し大きな獲物を狙ったと思う。たとえば、ウクライナのオレンジ革命はアメリカが裏で糸を引いていたとか、ロシアの野党指導者は米政府に雇われているとか、東欧などに配備するミサイル防衛構想の標的は、イランではなくロシアだとか。

 アハマディネジャド演説のボイコットは重大な意思表示には違いないが、歴史を変えるほどの事件からは程遠い。おそらくロシア人は、嘘がバレバレだったパキスタンの過ちを繰り返すまいとしたのだろうが。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年12月13日(月)9時33分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 14/12/2010. © 2010 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

新潟県知事、柏崎刈羽原発の再稼働を条件付きで了承

ワールド

アングル:為替介入までの「距離」、市場で読み合い活

ビジネス

日経平均は反落、ハイテク株の軒並み安で TOPIX

ビジネス

JPモルガン、12月の米利下げ予想を撤回 堅調な雇
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story