コラム

ブラジル大統領選の勝者は緑の党

2010年10月05日(火)16時04分

 週末に行われたブラジル大統領選の大きなサプライズは、ブラジル緑の党の大統領候補で有名なアマゾン熱帯雨林保護活動家のマリナ・シルバ前環境相の躍進だ。予想を上回る19%の票を得て、勝利がほぼ確実視されていた与党・労働党のディルマ・ルセフ前官房長官の過半数獲得を阻止。2大政党の候補による決戦投票に追い込んだ。勝利へ向けて2大政党から支持を求められる立場になった緑の党は、決戦投票のキャスチング・ボードを握って怪気炎を上げている。


 結党以来最多の得票を得た緑の党のアフレード・サーキス党首は、2大政党の候補の環境保護政策を注視すると言った。かえって熱帯雨林破壊を進めているとして環境保護派が猛反発している改正森林保護法や、温室効果ガス削減への取り組みなどだ。

 シルバの得票率が31.52%に達した首都リオデジャネイロでは、日刊紙オディアが一面に「緑の津波」という見出しを掲げた。

「10月31日の決戦投票にマリナ・シルバの名前はないが、勝敗を決めるのは彼女だ」と、同紙は書く。「シルバは大統領選の中心人物になった」と、アマゾンで活動するジャーナリストで70年代後半からシルバを知るアルティノ・マチャドは言う。


 シルバはルラ政権の環境相を08年に辞任している。森林保護に後ろ向きだと政府を批判して大きな話題になった。彼女はアマゾンにあるアクレ州でゴムを採集する貧しい農民の子で、14歳まで文字も読めなかった。緑の党が支持を集めたのは、シルバの劇的な経歴が受けたのと同時に、ブラジルで環境問題が重大な関心事になっていることの表れだ。ブラジルでは、実に人口の85%が気候変動を重大な問題とみなしている(アメリカでは37%に過ぎない)。

 6月にはオーストラリアのケビン・ラッド首相が地球温暖化対策の公約を破ったことで辞任に追い込まれている。今度のシルバの成功と併せ、これが有権者が環境問題を重視し始めた兆候なら喜ばしいのだが、地球規模の変化というにはまだ程遠い。とくに、11月の中間選挙でアメリカが緑の津波に洗われるとはとても思えない。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年10月04日(月)16時32分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 5/10/2010. ©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、和平巡る進展に期待 28日にトラン

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story