コラム

奇人カダフィ、イタリアの村を救う

2010年06月23日(水)16時40分

 リビアの最高指導者ムアマル・カダフィ大佐のきてれつな言動は数え切れない。リビアの暦を組み換え、国際テロへの支持を公言し、国連安全保障理事会を「テロ理事会」と呼び、処女のボディガード隊とラクダ1頭を公式行事に同伴させ、国連にスイスという国を「廃止」するよう要求したことすらある。

 この狂気じみた誇大妄想症の男が次に何をやらかすのか。驚くべきことに、それは行き当たりばったりの親切な行動だった。カダフィは、イタリアの貧しい小さな村を救うための計画を立てさせた。しかも利他主義と愛情のほかには何の動機もないかのように装っている。

 山あいの古い村アントロドーコとカダフィとの運命的な出会いは、いわば一目ぼれだった。昨年、イタリア中部ラクイラで開かれたG8サミット(主要8カ国首脳会議)に出向いた際、カダフィは少し前に発生したマグニチュード6.3の地震でイタリア中央部のインフラが痛んでいることを恐れ、訪問団に迂回するよう命じた。

 迂回した結果、経済的に困窮しているアントロドーコを通ることになった。人口2800人のこの町で、カダフィは温かく歓待された。感激のあまり彼はこう言ったという。「あなたがたは私の心の中に入ってきた。私は決して忘れない」

■ホテルやスポーツ施設の建設を約束

 帰国するとすぐ、カダフィはローマ駐在のリビア大使ら高官を同町に派遣。高級ホテルやミネラルウォーター工場、スポーツ施設を建設するほか、観光や雇用を支援することを約束した。こうした計画を1週間かけて双方が話し合うことになった。

 カダフィの車列がイタリアの名もなき山あいの村で停車し、華やかなリムジンの奥から、床ほどの広さのマントと刑事ドラマ『マイアミ・バイス』ばりのスーツをまとった彼が、アントロドーコを救う正義の味方として登場する──そんな場面を想像するのは難しい。

 もっとも、若くて美しい女性500人をローマでの集まりに招待し、イスラム教の経典コーランを全員に渡して改宗させようとしたことも、事前に想像することは難しかった。参りました、大佐。あなたは私たちをまた驚かせてくれましたね。

──シルビー・スタイン
[米国東部時間2010年06月21日(月)15時37分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 23/6/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インフラ攻撃を5日間延期、協議継続とトランプ氏表明

ワールド

レバノン地上戦、イスラエル民間人初の死者 自軍の誤

ビジネス

原油高と新興市場減速、中国経済の重しに=ゴールドマ

ビジネス

NYで着陸機と消防車両衝突、操縦士2人死亡 ラガー
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 3
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記者に、イスラエル機がミサイル発射(レバノン)
  • 4
    「胸元を強調しすぎ...」 米セレブ、「目のやり場に…
  • 5
    スウェーデン次期女王ヴィクトリア皇太子、陸軍訓練…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 8
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 9
    「筋力の正体」は筋肉ではない...ストロングマンが語…
  • 10
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 4
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story