コラム

ポランスキー監督「拘束」の心地悪さ

2009年09月29日(火)16時17分

pass060909.jpg

映画界の大物 カンヌ映画祭でコーエン兄弟の監督作品『ノーカントリー』の
試写会に姿を見せたポランスキー(07年5月) Yves Herman-Reuters


 映画『チャイナタウン』や『戦場のピアニスト』などで知られるロマン・ポランスキー監督は、30年以上もアメリカに足を踏み入れていない。この映画界の巨匠は、かつてロサンゼルスで起こした淫行事件で現地当局から指名手配を受けていた身だ。

 だが長年に渡って逃れ続けられた運も尽きたのか、現在、ポランスキーはロサンゼルス郡検察の求めに応じたスイスで身柄引き渡し手続きを待つ憂き目に遭っている。

 ポランスキーは9月27日、チューリッヒ映画祭に出席するため、住まいのあるフランスを出発。チューリッヒ国際空港に到着した直後にスイス警察当局に拘束された。スイスはフランスと違い、ポランスキーのような人物についてアメリカと身柄引き渡し条約を結んでいる。

 1977年、ポランスキーはロサンゼルスで当時13歳だった少女と性的関係をもったことを認めた。少女はその後、自ら名乗り出て個人的には彼を許していると公の場で発表していたが、検察による訴追が取り下げられることはなかった。

 ロサンゼルス郡検察当局のサンディー・ギボンズ広報官は、今回の件に関してニューヨーク・タイムズ紙に、こう語った。


「ポランスキーが、アメリカと身柄受け渡し条約を結ぶ国に入国を計画していると連絡を受けたときは、いつでも外交ルートを通じて逮捕状を送ることになっている」


 身柄引き渡しの観点からみれば、ポランスキーのケースは特殊なものではないのだろう。だが物議をかもすものではあることは確かだ。

 ロサンゼルス郡検察は、多忙な映画監督の渡航を常に監視し、多くの映画祭に足を運ばすにビデオ出演を選ぶポランスキー逮捕のチャンスをずっとうかがってきた。その執念は、実に興味深い。

 とはいえ、ポランスキーがセレブだということを差し引いても、この拘束劇がこれほど不条理に思えてしまうのはなぜだろうか。

 おそらく私たちは、9・11後の世界で「身柄引き渡し」という言葉を、国家安全保障にかかわる「今そこにある危機」と勝手に結びつけるようになっているのかもしれない。


──クリスティーナ・ラーソン
[米国東部時間2009年09月28日(月)11時18分更新]


Reprinted with permission from "FP Passport", 29/9/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米軍がホルムズ海峡封鎖へ、イランは交渉に戻る見通し

ワールド

ロシア・ウクライナ復活祭停戦、発効数時間で双方が違

ワールド

米イラン協議決裂、核・ホルムズ海峡で溝埋まらず 停

ワールド

中国、台湾向け観光規制緩和など新措置 野党党首訪中
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 2
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相場で人気の優良株から売られる落とし穴
  • 3
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけない副作用に研究者が警鐘
  • 4
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 5
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 6
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 7
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 10
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story