コラム

成熟した高齢者世代が日本を元気にする

2013年01月28日(月)14時13分

今週のコラムニスト:クォン・ヨンソク

[1月22日号掲載]

 国民のほぼ4人に1人が65歳以上という長寿大国日本の超高齢化は避けられない。ちまたでは「老人国家」や「衰退国家」と懸念されているが、僕は逆に高齢化する日本に希望を抱いている。今の日本には世界に誇るべき「グランド・ジェネレーション(GG、かつてのシルバー世代)」がいるからだ。

 僕は日本のGG世代を尊敬している。韓国の同じ世代が儒教倫理の下、時に上から目線で強圧的なのに対して、日本のGG世代は概して謙虚かつ柔軟で、聞く耳を持っている。韓国の老親みたいに子供に生活費や小遣いを要求したりせず、連絡を入れるだけで喜んでくれる。

 日韓のGG世代では政治意識も対照的だ。今回の韓国大統領選は保守的な50代以上の結束が勝敗を決めた。彼らは開発独裁の下で経済成長を達成した故朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の時代を懐かしみ、財閥中心の経済構造を容認する。だが今の日本で沖縄基地問題、原発反対などの市民運動や、近隣アジア諸国との関係改善に積極的なのは60代以上の世代だ。僕が新聞の読者欄で共感できるのは、ほとんどがこの年代の投稿だ。

 日本のGG世代は敗戦・復興の歴史を体験し、その後は冷戦と未曾有の経済成長の時代を生きた。戦争やナショナリズムの怖さとむなしさを知っており、平和の尊さを強く意識している。漠然とかもしれないが、過去の日本が過ちを犯した、隣国に迷惑を掛けた、という原罪意識を引きずってきた。それが戦後日本を平和と民主主義の理念の下で、経済成長に邁進させる原動力となった。日本国憲法の理念を本気で信じ、世にも不思議な「道徳的な」戦後日本をつくり上げた。

 また高度成長を経て「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と持ち上げられて有頂天になった後、バブル崩壊を目の当たりにした。近年2度の大震災を経験したこの世代は、成長と開発神話のむなしさと文明のもろさを直感的に感じている。

 僕はGG世代の文化も好きだ。韓流に関する拙稿に丁寧なお手紙を下さるのも彼らだ。70代、80代になって初めて韓国語を学ぶGG世代。こんなに知的で文化的な高齢者が世界にいるだろうか?

 僕がGG世代に期待をかけるのは、若者が保守化(老年化)しているから。安倍晋三首相が心配するまでもなく、今の若者の多くはアジアに対して逆に「被害者意識」を持っており、愛国心にあふれている。「反体制」「反骨」というかつての若者の気慨は見いだせない。佐野元春的に言えば「ロック」ではないのだ。

■奪い合いから分かち合いへ

 40代になって思うことだが、人も国家も老いることは悪くない。反応は鈍くなるが、相手の気持ちを案じるようになったことは大きい。同志社大学大学院の浜矩子教授が「老楽(おいらく)国家」という国家像を提案している。市場占有率のような「奪い合うシェア」から「分かち合うシェア」へ軸足を移し、成熟した国家を目指すべきだと主張している。

 超高齢化社会では年齢に対する通念を抜本的に変える必要がある。定年を引き上げ、再雇用制度を活性化し、ワークシェアリングなど労働環境の改革を進めていくことが必要だ。GG世代の創業や社会的起業などを促すソフト重視の政策にも期待したいが、安倍政権は昔ながらの公共事業と「ハード」面強化に活路を見出している。

 日本がまだまだ韓国、中国より優れていると言えるのは、カッコイイGG世代が多いところだ。アメリカにクリント・イーストウッドやメリル・ストリープ、ボブ・ディランがいるように、日本にも高倉健や吉永小百合、美輪明宏がいる。これほど素晴らしいGG世代を擁している国はそう多くない。国の価値はGDPや技術力、軍事力ではなく、いかに魅力的なGG世代が多いかで決まる。

 日本のGG世代よ、永遠に!

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・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
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