コラム

日本メディアに叩かれた加藤嘉一君への2通目の手紙

2012年12月17日(月)09時00分

今週のコラムニスト:李小牧

〔12月12日号掲載〕

 親愛なる加藤嘉一君へ──。

 中国でコラムニストとして活動し、「中国で一番有名な日本人」とも呼ばれる君に、このコラム上で「手紙」を書いたのは昨年6月。人生の先輩として、また一人の中国人として、君が日本人の耳に届かないのをいいことに、中国で日本の悪口を言っていると批判しました。

 その後、君は私に直接「今後は李さんの貴重な意見を参考にしたい」というメールを送ってくれました。ただ、残念ながら私の苦言は君の心に届かなかったようです。

 先日、週刊文春が「『中国で一番有名な日本人』の経歴詐称を告発する」という記事を大々的に掲載しました。加藤君が中国メディアで「東大に合格したが、それを蹴ってあえて北京大学に入学した」と語っていたのは周知の事実。この記事は、それが真っ赤な嘘だということを、君の出身高校への取材で暴いています。君をよく知っている私のところにも取材が来て、コメントが掲載されました。

 私が確認した範囲では、雑誌が発売された日の朝、加藤君は自分のホームページ上で「東大に合格・入学した事実はない」と謝罪しました。誠実な態度に見えますが、その言葉は本心からではない、と疑われるような行動を、君はこの直後に取っています。

 中国での言論活動で嘘をついていたのですから、本来なら真っ先に説明すべきは中国の読者です。なのに君が中国向けにマイクロブログの新浪微博(シンランウェイボー)で謝ったのは、同じ日の夜でした。中国語の得意な君が翻訳に半日かかるはずはありません。雑誌の内容に対する中国側の反応を見て、もし頬かむりできそうなら謝らずに済ませようと思っていた──違うでしょうか。

■加藤君を利用したのは誰か?

 こんな例には事欠きません。昨年私がこのコラムで批判した後も、君は私を裏切るような行動を取りましたね。

 今年6月、東京都内の大学で開かれた日中関係のシンポジウムに加藤君と私が招かれましたが、なぜか君は事務局にこっそり電話して「李さんを外して出演者を僕一人にしてほしい」と要求しました。私に会うのが気まずかったのか、あるいはギャラを独り占めしたかったのかは分かりません。ただ妙な行動を取れば、在日24年の私のネットワークに引っ掛かるということがなぜ分からなかったのでしょうか。

 加藤君がこんなふうになってしまった責任の大半は、わが中国にあると私は考えています。日本の高校を出たばかりの18歳が北京大学で共産党の作った教科書を読む──。君が中国でコラムニストとして語ってきた内容は、要は人民日報の社説そのものです。中国メディア、そして背後にいる中国政府は、自分たちの主張を代弁してくれる便利な日本人として君を利用してきたのです。大した経験もない20代の若者にすぎない君を。

 今年秋に君がハーバード大学に研究員として赴任する際、中国で開かれた君の送別会にメディア関係者はほとんど来なかった、と聞きます。君は「使い捨て」にされたのです。今の加藤君に残っているのは、自分の目的達成のために平気で人に嘘をつく中国人の悪い習慣だけ、というのはあまりに悲し過ぎます。

 聞くところによれば、加藤君は中国とアメリカで学んだ後、日本で政治家になることを目指しているそうですね。経歴を大げさに言ったぐらいで騒ぎ過ぎ、と思うかもしれませんが、嘘が許されるのは中国の政治家ぐらいです。

 とはいえ、加藤君が中国でも臆せず日本人として情報発信してきたことは正当に評価されるべきでしょう。正すべき部分を正し、晴れて日本に帰ってきたときには、わが新宿・湖南菜館で大歓迎することを約束します。君が政治家を目指して議員に立候補しても、残念ながら外国人の私に投票権はありませんが(笑)。

プロフィール

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・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
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