コラム

歌舞伎町案内人17番目の「子供」

2009年12月07日(月)10時07分

今週のコラムニスト:李小牧

 2004年4月にこのコラムを書き始めてから、早いもので5年8カ月になる。毎日歌舞伎町に立つ私にとって本当にあっという間だったが、振り返ってみると6回目の結婚で結ばれた4人目の妻との間に通算3人目となる息子が生まれたり(笑)、歌舞伎町にわが「湖南菜館」を開いたり、と人生の転機と言っていい大きな変化があった5年間だった。

 来たる12月15日、その私にまた一つ記念すべき大きな転機が訪れる。17番目の子供が生まれるのだ!

 実は「子供」とは私の書いた本のこと。これまで日中合わせて計16冊の書籍を出版しているが、今度新たにこの『Tokyo Eye』と週刊大衆別冊連載の歌舞伎町ルポをまとめた『歌舞伎町より愛をこめて 路上から見た日本』(阪急コミュニケーションズ刊)が出ることになった。

 連載に加筆・修正するためこのコラムを読み直して感じたのだが、この5年間で中国も日本もわが歌舞伎町も大きく変わった。李小牧初の"評論集"出版を機に、コラムの主なテーマである日中関係と歌舞伎町の5年間を振り返ってみたい(決して本の宣伝ではない!)。

■「小泉ショック」を乗り越えて

 日中関係は今でこそ回復しつつあるが、小泉元首相の靖国神社参拝に始まり、04年のサッカー・アジアカップの反日暴動、05年に中国各地で起きた反日デモ、08年の毒ギョーザ騒ぎ......と、互いを敵視する事件が続いた。

 ただ小泉元首相が日中関係を「爆発」させてくれたお陰で、少なくとも日本人の目が否が応でも中国に向くようになったのは確かである。民主党の東アジア共同体構想じゃないが、冷戦が終わって日本が近隣のアジア諸国に目を向けるのは当然のこと。72年の国交回復以来、どちらかというと互いに遠慮するような関係が続いていたが、一連の騒動をきっかけに、ケンカをしても仲直りできる大人の関係に近づけたのではないか。

 中国人の日本を見る目も変わってきた。04年に62万人だった大陸からの観光客は08年に初めて100万人を超えた。正直、中国人にとって日本はまだまだ「出稼ぎ先」のイメージが強い国である。「走馬観花(ツオマーコアンホア、表面だけ見て通り過ぎること)」だとしても、日本人のマナーのよさや日本の美しさを肌で感じることで、中国人のもつ悪い印象は確実に減っているはずだ。

 歌舞伎町にとってこの5年間は残念なニュースが多かった。物騒な事件こそ減ったが、コマ劇場が昨年暮れ52年の歴史に幕を下ろし、映画館も大半が閉鎖。ビルの空き室も多い。

 街のあまりの不景気ぶりに、わが常連客から「まだつぶれてないの?」という温かい言葉(笑)をかけられるほどだ。私もこのコラムで「歌舞伎町ヒルズ」やラスベガス化計画といったアイデアを提案したが、残念ながら街が今後進むべき道はまだ見つかっていない。

■世界の歓楽街、歌舞伎町よ永遠に

 ただピンチはチャンスが李小牧のモットー。これまではどうしても「ヤクザ」「風俗」というイメージが先行することが多かったが、歌舞伎町はもともと戦後の焼け跡から日本人、中国人、韓国・朝鮮人が協力してつくり上げた街。「多文化性」をキーワードに住民のみんなが誇れる歓楽街をつくれば、それが新たな歌舞伎町ブランドになるはずだ。

 灰色のオフィス街だったのに、再開発で見事によみがえった丸の内の例もヒントになる。歌舞伎町自身の努力も必要だが、「世界のカブキチョー」を地盤沈下させないためには国や東京都の後押しが欠かせない。あれもダメこれもダメ、と規制するばかりだと街は死んでしまう。ときには「特別サービス」も必要である(笑)。

 帰国するとよく「中国がこんなに成長しているのにどうして帰らないの?」と聞かれる。自慢ではなく今の私が中国に帰れば、サービス業でも作家でも大学の講師でも、何をやっても成功するだろう。実際に投資を申し出てくれる人もいる。

 だが書きたいことを書き、言いたいことを言い、警察官からヤクザ、国会議員まで誰にでも会えるこの自由は何ものにも代えがたい。残念ながら、中国はまだメディアの取材に「私は歌舞伎町の毛沢東!」とコメントしただけでその部分を削除される国だ。中国と日本の真ん中に立って、両方のいいところと悪いところを発見しながら、まだまだ成長していきたい。カネだけじゃないのである。

 5年後の2014年、54歳の李小牧はきっと歌舞伎町に立ち続けているだろう。その隣には20歳になって「2代目歌舞伎町案内人」を襲名した2人目の息子がいるかもしれない(笑)。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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