コラム

「イタリア化」する日本

2009年07月03日(金)12時00分

 日本の政局は、大混乱になってきた。こういう状態をよく「イタリア化する」というが、別の意味でも日本はイタリアによく似てきた。G7諸国で1人あたりGDPや労働生産性などをランキングすると、かつては日本がトップでイタリアが万年最下位だったが、最近は仲よく最下位を争うようになった。財政赤字のGDP比などは、日本がぶっきちぎりのトップに躍り出た。

 これはおそらく偶然ではない。イタリアがよく「欧州の最貧国」といわれる最大の原因は、政財官界の上層部が親戚関係で結びついていて、そういうファミリーにつながりをもたない人はビジネスができないためだといわれる。株式市場は実質的に存在せず、銀行の融資も特定の財閥に独占されているので、イタリア人が事業を興すには家族から金を借りるしかない。このためイタリアの事業規模は先進国でもっとも小さく、グローバル企業がほとんどない。

 似たような現象は、フランスやスペインでも指摘される。ラテン系の国々は歴史が長く、同じ家系が何百年も続いているので、こうした既得権をもつ人々が政治・経済的な特権を独占し、新規参入を排除するシステムができてしまっているのだ。その結果、生産性が低下し、政治が腐敗し、政権の混乱が続く。日本も、この意味で急速に「ラテン化」しているのかもしれない。

 さすがにイタリアもこれではまずいと気づき、2006年に腐敗の象徴だったベルルスコーニ首相が政権から追放されたが、そうすると政権が「イタリア化」して混乱が続き、結局は昨年、ベルルスコーニが政権に復帰した。ローマに住む日本の友人は、あきらめ顔でこういう。「みんなベルルスコーニが嘘つきで腐っていることを知っているが、彼は意外に人気がある。あのでたらめさが、イタリア人そのものなんだよ」。日本も確実に、イタリアの後を追っているように見える。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、60日間の一時停戦案を承認 人質・囚人交換

ワールド

米ウクライナ首脳会談開始、安全保証巡り協議へとトラ

ワールド

ロシア、ウクライナへのNATO軍派遣を拒否=外務省

ビジネス

トランプ政権、インテル株10%取得巡り協議中と報道
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する現実とMetaのルカンらが示す6つの原則【note限定公開記事】
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 6
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 7
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 8
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 9
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story