コラム

「子供の頃から寝不足」「女子の方が休日に寝溜めする」日本人の睡眠傾向とリスク

2022年10月25日(火)11時20分

また、男女差を見ると、平日には差は見られませんが、女子のほうがより休日に寝溜めしている傾向が見られました。さらに、平日の起床時間は、学校があるために基本的に学齢や男女による差は少ないと考えられますが、高校生女子は男子や中学生までの女子よりも早起きする傾向がありました。これは「身だしなみにかける時間」が長くなるからと推測されています。

男女で必要な睡眠時間が違うことは、16年に英ラフバラー大睡眠研究センター所長のジム・ホーン教授らが行った調査など、多くの先行研究で示されています。ホーン教授は「睡眠不足と心理的疲労、抑うつ感、怒りなどとの関連がより強いのは女性で、女性は男性よりも長い睡眠時間が必要」と話しています。

平均睡眠時間増はテレワークの影響か

今回の広島大グループの研究では、子供でも睡眠不足や社会的時差ボケが精神の健康状態に関連するのか、それは男女差があるのかを検討しています。

「疲れやすい」「いらいらする」といった各質問に対し、「とても感じる」から「まったく感じない」までの4択で回答するアンケート調査では、睡眠不足や社会的時差ボケが大きい人ほど「疲れやすい、いらいらする、気分が落ち込む、昼間に眠くなる」といった精神的な不健康を訴える傾向がありました。さらに、この傾向は男女共に同じでしたが、女子のほうが睡眠不足や社会的時差ボケとの関連が強いことが示されました。

近年は、規則正しい睡眠習慣の重要性に対する理解が進み、ゲームやネットの過度な使用による子供の夜ふかしが健康や学業成績に影響することが懸念されています。この研究では子供の睡眠不足、特に女子の睡眠不足の悪影響が示唆されました。保護者を含めた睡眠教育で、生活リズムや規則正しい睡眠を早期に伝えることが大切でしょう。

先にも記述した21年のOECDの調査によると、先進国を中心とする33カ国の中で、日本の睡眠時間はもっとも短く、米国とは89分、中国とは99分の差がありました。

日本人の平均睡眠時間の推移は、総務省が1976年から5年ごとに行っている「社会生活基本調査」で見ることができます。2000年代に入ってから一貫して減少傾向でしたが、最新の令和3年の調査では10歳以上の約19万人の平均睡眠時間は7時間54分で、前回の7時間40分に対して初めて増加傾向に転じました。

ただし、調査では「テレワーク(在宅勤務)をしていた人はしていない人に比べ睡眠、趣味・娯楽などの時間が長い」という傾向も見られ、コロナ禍での生活様式の変化の影響が示唆されます。日本人の睡眠時間の現象に歯止めをかけるためには、コロナ後もテレワークが定着するのかなども課題になりそうです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:夏枯れ下の円金利上昇、政局や金融政策に不

ワールド

アングル:ロシア、増税と歳出削減を準備か 軍事費高

ワールド

プーチン氏が会談拒否なら、米の「強い対応」望む=ゼ

ビジネス

ユーロ圏景況感3カ月連続改善、8月PMIが1年超ぶ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自然に近い」と開発企業
  • 4
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 5
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 6
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 7
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story