コラム

中国は「暴力」なしでデモの沈静化に成功...それでもロックダウン解除だけはできない訳

2022年12月10日(土)16時37分
武漢市での反ゼロコロナデモ

11月27日にSNSに投稿された武漢市でのデモの様子とされる動画より Reuters

<習近平のゼロコロナ政策への抗議デモが一気に燃え上がった中国だが、これ以上広がる可能性は低いと見られている>

中国でゼロコロナ政策に反対する抗議デモが広がったことが話題になっている。1989年に発生した天安門事件以降で最大級のデモ、と指摘する報道もあり、世界の中国ウォッチャーが注目している。

●暴力的なデモ制圧をしなかった中国当局...それなのに沈静化できたのはなぜか?

今回のデモでは、いくつかの象徴的な動きがデモを拡散させるきっかけになった。そもそものきっかけは、中国政府によるゼロコロナ政策によるロックダウン(都市封鎖)などに対する不満があったことだが、そんな中で約3カ月前からロックダウン下にあった新疆ウイグル自治区ウルムチ市の住宅で火災が発生。ロックダウンによるバリケードなどが消化活動の妨げになったと指摘され、それによって10人が死亡する事態になった。

さらに習近平国家主席の出身校である北京の精華大学でもゼロコロナに抗議するデモが発生したり、iPhoneなどの生産を請け負っている台湾企業Foxconnの中国工場が閉鎖されるなど抗議デモが発生したこともあり、各地でデモや混乱が広がった。

そもそも、習近平のゼロコロナ政策は新型コロナ対策として効果的なのか。ブルームバーグ通信は、中国国内に新型コロナ治療に使われる集中治療室(ICU)の臨床数が圧倒的に少ない問題があると指摘している。そのため、新型コロナ感染は2023年も高水準で続いていく可能性が高いとし、ロックダウンを止めていま中国をオープンにすれば、少なくとも580万人が集中治療室での治療を必要とするようになり、医療崩壊になるという。

現在、中国には10万人につき4人分しかベッドがないという。これを国際的に比較すると、日本は10万人につき7.3人、アメリカは10万人につき34.7人、ドイツは29.2人、韓国は10.6人、英国は6.6人となっている。圧倒的に少ない。

デモはもうこれ以上は広がらない

少し落ち着いた感もある中国の抗議デモだが、中国の国家衛生健康委員会(NHC)は12月7日から全土で新型ウイルス対策を緩和すると発表。無症状か軽症の感染者は自宅隔離が可能になった。また、都市や周囲を全体的にロックダウンするのではなく、建物やフロアなどで行動制限したり、ロックダウン解除へのルールを緩和するなどした。それによって、抗議デモはもう広がらないだろうと見られている。

もっとも今回の抗議デモは、デジタル時代ということもあって、中国政府は参加者などを徹底監視している。中国では通信アプリWeChatなどの普及率が非常に高いために、デモ参加者も手に取るように把握できる。またSNSなども制限しているために、抗議デモも政府が監視やコントロールができていると指摘されている。皮肉なことに、コロナ禍で感染者やワクチン接種者などの徹底管理が行われたため、さらに個人のさまざまなデータが当局に大量に蓄積されるようにもなっている。

中国デモと当局の監視については、「スパイチャンネル~山田敏弘」でさらに詳しく解説しているので、ぜひご覧いただきたい。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story