コラム

世界が見るウクライナ戦争の姿はフェイク? 「戦争PR会社」と「情報戦」の深層

2022年06月25日(土)18時44分
ゼレンスキー大統領演説

5月のダボス会議でオンライン演説を行ったウクライナのゼレンスキー大統領 Arnd Wiegmann

<SNSを舞台にした「情報戦」は、ロシアのウクライナ侵攻でも大きな役割を果たしている。暗躍する「戦争PR会社」は、どんな働きをしているのか>

サダム·フセイン大統領率いるイラクがクウェートに侵攻したのは1990年8月のことだった。

その後、イラク軍による占領では、略奪行為などが報告されていた。そして10月、クウェートから命懸けで脱出してきたという15歳のクウェート人少女のナイラは、米議会の公聴会に出席して、自らが見てきたイラク軍の残忍さについて涙ながらに証言した。

彼女によれば、イラク兵たちが病院に入ってきて、15人の未熟児を「冷たいコンクリートの床へ放り出し、保育器を奪っていき、死亡させた」と主張した。これが91年に勃発した湾岸戦争の開戦を後押しする要因の一つになった。

しかし、この証言は真っ赤な嘘だった。素性を隠していたナイラの正体は、実は駐米クウェート大使の娘。クウェートの要請でこのデタラメを演出したのはアメリカのPR会社だった。

戦争を引き起こすのも、戦争の行方を左右するのも、情報戦が大きな役割を果たす。「戦争広告代理店」または「戦争PR会社」などは、これまでも戦争や紛争に絡んで、当事者らのナラティブを主張するために暗躍してきた。

ウクライナを支援する150のPR会社

そして現在も続いているロシアによるウクライナ侵攻でも、情報戦が鍵になっている。SNSの時代になってコミュニケーションの形が大きく変わる中、情報が戦況を左右する度合いはますます高くなっている。

ウクライナ側もロシア側も、ツイッターやフェイスブック、TikTokなどのSNSを使って、自分たちの主張を喧伝している。政府関係者として従事する人もいれば、個人で加担する人も、組織的に関与している人たちもいる。

今回のウクライナ侵攻でも、やはり、ウクライナを支持する数多くのPR会社が情報戦に絡んでいる。その数は、ウクライナや欧米企業をはじめとして、世界で150社にもなる。

彼らは、「PR活動」として、メディアを使い、ウクライナ側の動画を編集するなど手助けもし、ロシアから出てくる情報をファクトチェックするなどしている。PRのスキルを使って、情報という「武器」で、ウクライナ政府を支える活動をしているのだ。

そんなこともあって、ウクライナへの寄付やクラウドファンディングをアピールしたり、ロシアに対してサイバー攻撃や情報工作を行うハッカーらを集めたりすることにも成功している。ウクライナ側はこれまでにかなりの寄付金を集めており、例えば3月だけで、6000億ドル規模の暗号通貨を集め、5月にも2日間でドローンを購入する資金として530万ドルの寄付を集めた。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story