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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

エリザベス女王に熱狂するフランスの報道に見る王室・皇室の存在

パリのイギリス大使館前には、エリザベス女王の大きな写真パネルが掲げられている        筆者撮影

前々から、フランス人はイギリス王室の話題が好きなんだな・・とは思っていました。何かとお騒がせなことも多いイギリス王室の話題をこれでもかというほどに取り上げ、度々、ドキュメンタリー番組まで作って、何度も何度も放送するのを見ていて、「また、イギリス王室の話題だ・・ホント好きだな〜〜」などと思っていました。

フランスとイギリスは近くて遠い国、遠くて近い国。ここしばらくは行けていませんが、陸続きではないにしろ、ロンドン⇄パリは、ユーロスターで2時間20分、飛行機ならば、1時間ちょっとで行ける、下手したらフランス国内よりも容易に行ける国だけあって、たまにロンドンに行くと、やたらとフランス語が聞こえてきて、「このお店に並んでいる人、みんなフランス人??」とびっくりしたことさえあります。

最近は、パリでもかなり英語を話してくれる人が増えましたが、以前は、メトロの駅の窓口などで英語で質問しようとしていた観光客らしき人が、「ここはフランスなんだから、フランス語で話せ!」などと言われているのを何度か見かけたこともあり、ホント、感じ悪いなぁ〜と思うことも多く、通じてはいるはずなのに、頑なに英語を話すことを拒否する人が多い国でした。しかし、これは、多くは中年以降の年代のフランス人に見られる傾向で、英語が嫌い・・というより、アメリカを嫌う一定の年齢層の人々がいて、そんな人々が幅を効かせていた時代の話で、現在は、こちらがお願いしなくても、外国人だと思ってか、向こうから英語で話しかけてくれたりすることもあるのに逆にびっくりするほどです。

しかし、同じ英語を話す国でもフランス人にとってイギリスというのは、対抗心もあるものの、現在はEUを離脱してしまったとはいえ、同じヨーロッパの国、そして、歴史もあり、由緒正しいイギリスという国には、一種の畏敬の念を抱いてもいると思われます。その畏敬の念の象徴とも言えるのがイギリスの王室なのです。

熱狂的なフランスのエリザベス女王のご逝去以来の報道

とにかく、エリザベス女王の容態が悪いらしい・・との報道が流れて以来、フランスのテレビでは、実況中継のように、その一部始終を生中継で報道し始めました。エリザベス女王は現在、バルモラル城で主治医の管理下におかれ、絶対安静を強いられているが、女王は穏やかに過ごされている・・チャールズ皇太子がカミラ婦人とともにバルモラル城にかけつけた・・ウィリアム王子も・・ハリー王子もやってくる・・これは只事ではない・・など、次々と入ってくるニュースを拾いながら、報道各局は、ニュース番組のほぼ全てをエリザベス女王に集中させ、つい、2日前のイギリス新首相任命の時の映像を流したりしながら、握手をする女王の手の甲に青いあざが見える・・などと伝えていました。そして、イギリスでBBCが訃報を伝えたのとほぼ同時に、フランスでも彼女の訃報が流されたのは午後6時半ごろのことでした。

それから、さらに報道は一斉にエリザベス女王の訃報に切り替わり、フランスの主要テレビ局の夜8時からのニュースからは、他のニュースが全てすっ飛び、全部がエリザベス女王のニュースに埋め尽くされ、通常の1時間枠だけでは収まりきらずにその後、特番が組まれて、延々と報道され続けました。

夜8時からのニュースは、その日に起こったメインのニュースをいくつか流すのが普通で、他のニュースを全て吹っ飛ばしてしまうニュースは、今年の初めにロシアがウクライナへの侵攻が開始された時以来のことで、そうそう、滅多にあることではありません。ある一人の人物が亡くなったことで、世界中で全てのニュースをすっ飛ばして大々的に報じられることなど、そうそうあるものではないのです。その日の夜は、エリザベス女王への弔意を示し、エッフェル塔も消灯されたほどです。

これは、大変な騒ぎようだったな・・と思っていると、それは、さらに翌日も続き、翌日の午前中から、マクロン大統領がパリのイギリス大使館に弔問に訪れる様子、「今、マクロン大統領がイギリス大使館に到着しました!・・」から始まって、「これから、マクロン大統領が記帳します!」、そして、在仏イギリス大使のフランス人向けのスピーチの様子などがすべて生中継され、同時にイギリスはバルモラル城、ウィンザー、ロンドン・バッキンガム宮殿と同時に複数の場所からの中継が行われ、驚いたことには、フランスの主要局のメインキャスターはほぼ全員、イギリスに移動して、現場?からニュースを伝えるという熱狂ぶりでした。

愛国心旺盛で、プライドも高く、何かと俺様感が強いところのあるフランス人が、自分の国の女王でもないのに、これだけ熱狂するというのも、ちょっと不思議な現象です。

フランス人はなぜイギリス王室がこんなに好きなのか?

しかし、以前から不思議に思っていたのですが、なぜフランス人はこんなにイギリス王室に熱狂するのでしょうか? 

フランスは自らの手で崩壊させてしまった王室というものへの郷愁のようなものが、ルーツとして残っているのではないかと思われるような気がします。リベルテ(自由)とか、エガリテ(平等)とか、デモクラシー(民主主義)とか叫びつつ、自らの手で王室を崩壊させてしまったフランスですが、その王室を別の形で存続させ続けているイギリスに憧憬の念をどこか抱き続けているのではないかとも感じるのです。実際に王室側の人々からすれば、自由も平等もあったものではないと思うのですが、政治とは関係のないところで国の象徴的な存在として、威厳と尊厳を保ち続けているイギリス王室には、特別な想いがあるに違いないと思うのです。

また、今回のセレモニーなど見ていても、その美しさは格別で、バッキンガム宮殿の前の緑に覆われた通りにイギリス国旗がたなびく中を赤い制服を着た衛兵たちが女王の棺を先導して行進していく光景などは、どこかシャンゼリゼのパリ祭のパレードを思わせるような感じもします。公式な儀式の際のコスチュームなども、どこかフランスの変化球バージョン(もしかしたら、フランスの方がイギリスの変化球バージョンなのかもしれませんが・・)のようで、どこか、共通するエスプリが感じられるところも、フランス人にとっては好ましいのかもしれません。一連の葬儀のセレモニーの演出をあまりに美しいというのも気が引けることではあるのですが、もしも、今でもフランスに王室があったら、似たような盛大な美しいセレモニーが行われただろうに・・と思ってしまいます。

そして、日頃は、自由だ!権利だ!民主主義だ!とデモを繰り返すフランス人には、同時に文化や歴史、伝統に対する畏敬の念を常に抱いているという二面性があって、特に俗世間とはかけ離れた世界にありつつも、しっかりと世の中に大きな影響力を持ちつつ存在する王室の伝統や文化に対しては、格別の尊敬を抱くという国民性があるのです。

また、それに加えてエリザベス女王は、フランスに対して比較的好意的であったり、最初の公式の海外訪問がフランスであったり、エリザベス女王自身も流暢なフランス語を話されていたということ(フランス人にとって、その人がフランス語を話す人であるかどうかということは、すごく大きな意味を持つ)や、何よりも、歴代のフランス大統領8人とも交流を持ち続け、同時にフランスの歴史を担う存在であったことも、フランスにとっての彼女の存在を引き立たせているのです。

かつて、彼女がフランス語で行ったスピーチやフランスの歴代大統領との交流映像なども繰り返し流されています。

そのうえ、エリザベス女王にも引けを取らないほど人気だったダイアナ妃が亡くなったのもパリでの出来事という、イギリスとは、何やら因縁めいたものまであります。今でも事故のあったパリ・アルマ橋には、ダイアナ妃の記念のもモニュメントが光り輝き、手向けられるお花が絶えることはありません。

王室の存在

王室はまさに俗世間とはかけ離れている存在でありながら、イギリス王室は、結婚だ、不倫だ、離婚だと何かとお騒がせな、まことにドラマチックな人間らしい家族模様が繰り広げられるところもフランスの一般大衆を惹きつけます。フランスではゴシップネタをテレビのニュース番組などで取り上げることはありませんが、イギリス王室だけは例外です。今回のエリザベス女王の訃報からは、家族それぞれの生い立ちやこまごまとしたネタを、これでは日本のワイドショーみたいだ・・と思うような内容まで、特に、今回は王位を継承するチャールズ新国王については、執事が毎朝、歯磨き粉をチューブに何センチのせてお渡ししている・・とか、靴紐にまでアイロンをかけている・・などということまで紹介していて、いささか辟易します。

IMG20220915161423.jpgキオスクの雑誌は全てエリザベス女王が表紙に君臨    筆者撮影

しかし、あらためてイギリス王室というものを見ると、国王とは本質的には、権力の行使は制限され、「首相の相談を受ける権利」、「首相に助言する権利」、「首相に警告する権利」という3つの権利だけを残して儀礼的なものに留まるとされているものの、その範囲内でエリザベス女王が長年をかけて、培ってきた国王としての存在は、別次元の威力を持ち、大きな影響力をもって君臨してこられたことがうかがえます。それは、世界的な認知度とともに、イギリス国内はもちろんのこと、全世界からの尊敬の的ともなっていたのです。伝統を重んじ、王室の存続を守り続け、ちょっと困った家族のいざこざにも時には寛容に受け入れる人間味を持ちつつ、70年以上も女王の座を守り続けて、亡くなる2日前まで女王としての存在を示し続けたエリザベス女王の人生はまことにあっぱれで、世界の王室の成功例として歴史的に深く刻まれることでしょう。

自国にはない王室という存在、扱い方の大きさは異なるとはいえ、伝統的なものへの畏敬の念を持っているフランス人は、日本の皇室に対しても、その尊敬の念は別格扱いです。現に、近年、日本で行われた皇位継承の儀式などは、普通の日本人でさえもあまり見慣れない光景ではありましたが、古式ゆかしい伝統的な日本を守り続けている神々しい儀式は大絶賛されていました。これはまさしく貴重な文化の継承でもあり、それは、世界からは別格の畏敬の念をもって受け入れられるものなのです。今回のエリザベス女王の国葬に関しても、世界からの要人が出席すると名前が連ねられ、日本からはなんと日本の皇室3代にわたってお付き合いがあることから、「天皇皇后両陛下」がいらっしゃるとこれまた別格扱いです。

王室、皇室というものは、時には政治的な隔たり、宗教的な信念、社会的な所属を超える存在でもあり、それを継承し続けるということは、国の大きな力の一つでもあり得るのではないかと感じるのです。エリザベス女王がフランスの歴代大統領の中で最もお気に入りだったミッテラン大統領は、生前「私はマーガレット・サッチャーとエリザベス女王の両方の役割を果たさなければならない」と言っていたのは、有名な話ですが、この政治と王室の両方の役割の片方がフランスには欠けているということでもあり、イギリス王室がフランスで人気があるのは、それはフランス人が失ったとどこかで感じている国の象徴的な力をイギリス王室が体現していることにあり、無意識のうちに、この憧れと羨望の眼差しの中には、自分達が王室を壊してしまった少々の罪悪感を伴った一種のノスタルジーも含まれているのかもしれません。

それにしてもフランスがここまで熱狂的になる他国の行事というものもそうそうあることではなく、事実、エリザベス女王の国葬は、ここ数十年で世界最大の国際的儀式となるであろうと言われています。

エリザベス女王の国葬の当日は、BFMTV(フランスのニュースチャンネル)では、なんと1日中、葬儀の模様を生中継するそうです。フランスでは、「フランス人は女王を愛し、女王はフランスを愛していた」と言っていますが、女王がどれほどフランスを愛していたかは定かではありませんが、フランス人が女王を愛していたことは確かなようです。

 

Profile

著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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