コラム

米国サイバー軍の格上げはトランプ大統領の心変わりを示すのか

2017年08月22日(火)17時15分

日本のサイバー防衛隊

日本の自衛隊のサイバー防衛隊は、権限、能力、規模のいずれにおいても米国サイバー軍には及ばない。その名の通り、「防衛」を主眼としたものであり、サイバー軍のように積極的に攻撃手法を追求しているわけではない。無論、攻撃と防衛は表裏一体であり、攻撃手法の研究はむしろ行うべきだろう。自衛権の一環としてサイバー攻撃の発信源を特定することができれば、それを止めることも可能である。

その重要性が認識されるに当たって、サイバー防衛隊も規模が拡充されることになった。現在は110名程度と見られているが、共同通信の報道によれば、1000名規模を目指すという。

自衛隊の場合は、米軍の統合軍のような規模(統合軍で最大の太平洋軍は30万人を超える)の恒常的な統合部隊は存在しない。必要に応じて統合運用を行う統合任務部隊が編成されることになっている。サイバー防衛隊は、統合幕僚監部の下の自衛隊指揮通信システム隊のさらにその下にある。この自衛隊指揮通信システム隊は、初の常設の統合部隊として設置されたが、米国のサイバー軍とはかなり立て付けが異なる。それでも、自衛隊全体を見渡す位置にあることは重要である。

トランプ政権のごたごたが収まるのが先か、あるいは、大きなサイバー攻撃が起きるのが先か。日本では2020年の東京オリンピック・パラリンピックが一つの目標となって整備が進められている。

サイバーセキュリティの重要性を認めたトランプ大統領

サイバー軍昇格に当たってのトランプ大統領の声明は、「サイバースペースの脅威に対する我々のさらに高い決意を示し、我々の同盟国とパートナーを安心させ、敵を抑止するのに役立つだろう」と述べている。そして、サイバースペース作戦の重要性に見合った権限を持つ一人の司令官の下にサイバースペース作戦を集約することで、素早い対応が必要な作戦の指揮統制を能率化することになるともいう。サイバー軍司令官とNSA長官の兼任については、国防長官が検討し、いずれ大統領に提言するという。最後に、サイバー軍を通じて志を同じくする同盟国やパートナー国と連携しながら、サイバースペースの挑戦に取り組むとも述べている。日本にもいずれ影響が及ぶだろう。

サイバー軍の昇格は、米軍がサイバーセキュリティを深刻に受け止めている証左に他ならない。大統領選挙でのサイバー攻撃問題を認めたがらなかったトランプ大統領がこれを承認した意味は大きい。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾総統、強権的な指導者崇拝を批判 中国軍事パレー

ワールド

セルビアはロシアとの協力関係の改善望む=ブチッチ大

ワールド

EU気候変動目標の交渉、フランスが首脳レベルへの引

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story