最新記事
フランス

「放火魔消防士」との声も...解散ギャンブルに踏み切ったマクロンの真意とは?

What Was Macron Thinking?

2024年6月19日(水)13時39分
ロバート・ザレツキー(米ヒューストン大学教授〔歴史学〕)
エマニュエル・マクロン大統領

議会の解散と総選挙を宣言したフランスのマクロン大統領 NATHAN LAINEーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<アタル首相からも止められた突然の解散総選挙宣言に溢れる疑問の声。中道左派から見捨てられたマクロン大統領は、「脱悪魔化」した極右・国民連合に勝てるのか>

6月9日の日曜、フランス政界に激震が走った。それも2度。瓦礫の山から首を出した政治家たちが目にしたのは、まるで天地がひっくり返ったかのような世界。いったい何が起きたのか?

最初の揺れは、国内で欧州議会選挙の投票が締め切られた直後に起きた。マリーヌ・ルペンの極右政党「国民連合(旧国民戦線)」の圧勝が確実になったのだ。

ただし、これには予感があった。事前の世論調査でも、若武者ジョルダン・バルデラを党首に担いだ国民連合の支持率が30%以上で、バレリー・アイエを代表とする与党「再生」の2倍以上だった。

票の集計が進むにつれて衝撃は深まった。国民連合は過去の欧州議会選でも主要政党に勝っていたが、今回はその差が17ポイントにも近づいた。

しかもブルターニュやイル・ド・フランス地域圏(首都パリを除く)のような中道派の牙城を含む全ての地域を制した。支持層も、かつて手の届かなかった高齢者や大卒・専門職の人にまで広がっていた。

その後にもっと大きな余震が来た。選挙結果が判明して1時間としないうちに、エマニュエル・マクロン大統領が国民議会(下院)の解散総選挙を宣言した。マクロン政権に対抗する野党勢力も与党の有力政治家たちも、これには天を仰ぐしかなかった。

誰も解散を予想せず

「ここまで国民連合が強くては解散総選挙など不可能だ」。ある現職閣僚は数週間前に、そう語っていた。マクロン自身も5月までは、欧州議会選はEUの問題であって、フランスの政治にまで影響が及ぶものではないと述べていた。つまり、本人も解散宣言などは想定していなかった。

賭けに出たな、と政界関係者や評論家たちは言う。マクロンは解散宣言の直前に、ごく少数の同志と相談していたが、首相のガブリエル・アタルを含め、みんな大統領に再考を求めたと伝えられる。

火消しをしたくて火を付ける「放火魔消防士」に等しいと切り捨てた人もいる。だがレッテル貼りはむなしい。必要なのは「なぜ?」の解明だ。いくつかの説明があり得る。

まずは「大胆さ」。18世紀末のフランス革命で雄弁家として名をはせたジョルジュ・ダントンは言ったものだ。「大胆に、より大胆に、常に大胆に。それでこそフランスは救われる」と。

マクロンも、大胆さでは誰にも負けない。実際、衝撃の解散総選挙宣言で野党勢力は度肝を抜かれた。

だが、あいにく1党だけ例外があった。当初から(少なくとも口先では)解散総選挙を求めていた国民連合だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インドCPI、11月は過去最低から+0.71%に加

ビジネス

中国の新規銀行融資、11月は予想下回る3900億元

ビジネス

仏ルノー、モビライズ部門再編 一部事業撤退・縮小

ビジネス

ECB、大手110行に地政学リスクの検証要請へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中