最新記事
米政治

不倫口止め料巡るトランプ裁判が開始、有罪でも無罪でも「民主主義の勝利」と言い切れる理由

Important After All

2024年4月23日(火)13時19分
マーク・ジョセフ・スターン(スレート誌司法担当)


トランプは、自分はほかの人と同じ規則に従う必要はないと信じている。16年の大統領選でヒラリー・クリントンをはじめとするほかの候補者は、献金の上限額や情報公開義務などに関する法律に従ったが、トランプはためらうことなく法律を無視した。

ブラッグによる起訴は、民主主義国家で公職に就こうとする者は誰であれ、法的義務を無視することは許されないという単純な命題を示している。大統領経験者だろうと大富豪だろうと、薄っぺらな法的解釈を盾にして責任を回避し続けることはできない。

マーチャンは、今回の裁判でこの基本原則が問われていることを理解しているようだ。これが、この裁判が極めて重要な意味を持つもう1つの、そして最後の理由につながる。ニューヨークの裁判所は、連邦裁判所より政治的介入の影響を受けにくいのだ。

トランプをいま裁くべき

トランプは4件の刑事裁判を抱えている。ホワイトハウスから機密情報を持ち出した件に関する裁判は、彼が在任中に指名したアイリーン・キャノン判事が担当となった。彼女は裁判開始を遅らせようとするトランプの画策を、何度も許してきた。

連邦議会議事堂襲撃をめぐる裁判を担当するターナ・チャトカン判事は予定どおり裁判を進めようとしたが、連邦最高裁による不当な介入によって予定を狂わされた。トランプが20年大統領選でジョージア州の投票結果を覆そうとした件の裁判はあまりに複雑で、捜査を指揮する女性地区検事が自ら任命した男性特別検察官と恋愛関係にあったという疑惑が浮上する前から、年内の裁判実現は困難だった。

残るのは党派主義に基づく圧力も引き延ばし戦術もはねつけ、迅速な裁判の原則を維持してきたニューヨーク州の裁判だ。昨年まで私は連邦裁判のほうが公平な審理を行うと考えていたが、それは間違いだった。キャノンらが牛耳る連邦裁判が、ニューヨーク州よりまっとうなはずはない。

ニューヨーク州でトランプに有罪評決が下る保証はない。私たちはいつもどおり、陪審員らが恐れや偏見なしに判断を下すことを信じるべきだ。

評決は有罪かもしれないし、無罪かもしれない。評決不能や審理無効になる可能性もある。だが現時点で最も重要なのは、トランプがこのタイミングで裁判を受けることだ。

大統領選が迫るなか、選挙に不正介入する新たなチャンスが生まれている。ブラッグとマーチャンのおかげで、トランプは新たな罪を犯すチャンスを得る前に、過去の少なくとも1つの犯罪容疑について責任を問われる。それ自体が大きな勝利だ。

©2024 The Slate Group

20240604issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年6月4日号(5月28日発売)は「イラン大統領墜落死の衝撃」特集。強硬派ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える グレン・カール(元CIA工作員)

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス

ビジネス

米国株式市場=ダウ急反発、574ドル高 インフレ指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「精密」特攻...戦車の「弱点」を正確に撃破

  • 3

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...痛すぎる教訓とは?

  • 4

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 5

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 6

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 7

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 8

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「同性婚を認めると結婚制度が壊れる」は嘘、なんと…

  • 1

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 4

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 5

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 8

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中