最新記事
ヘルス

アルツハイマー病、治療薬の次はワクチン 少なくとも7つの臨床試験が進行あるいは終了段階に

2023年11月27日(月)11時22分
ロイター
アルツハイマー病の症状を示す脳のCT画像

脳から有毒タンパク質を除去する画期的なアルツハイマー病の治療薬が登場したことで、同病のワクチン開発熱が復活している。写真はボストンの病院で、アルツハイマー病の症状を示す脳の画像を見る医師。3月撮影(2023年 ロイター/Brian Snyder)

脳から有毒タンパク質を除去する画期的なアルツハイマー病の治療薬が登場したことで、同病のワクチン開発熱が復活している。科学者と企業幹部10人へのインタビューによると、何百万人もの人々に安価で投与しやすいワクチンを提供できる可能性が出てきた。

米政府のデータベース「ClinicalTrials.gov」を調べたところ、少なくとも七つのアルツハイマー病ワクチンの臨床試験が進行、あるいは終了していることがわかった。

さらに多くの研究も進みそうだ。ワクチンは免疫システムを抑制し、同病に関連するタンパク質であるベータアミロイドとタウを除去する設計となっている。

アルツハイマーのワクチンを巡っては、20年以上前に最初の有望な開発が試みられたが、臨床試験を受けた有志のうち6%が命に関わる髄膜脳炎を発症したことで、中止された。現在の関心の高まりは、それ以来、初めての出来事だ。

研究者らはその後、より安全な方法として、高度に標的化された人工抗体を患者に注入し、体内の免疫構造を回避する方法に切り替えた。

エーザイとバイオジェンが新たに発売した「レケンビ」と、イーライリリーが現在、米国で承認審査中の「ドナネマブ」はこうした治療法であり、アミロイドの除去が早期のアルツハイマー病と闘う鍵であると、いう見解を確立させた。

これらの薬が成功するまでは、長年にわたる相次ぐ失敗によって多くの専門家が、アミロイド理論に疑念を抱いていた。

バクシニティ、ACイミューン、プロテナといった医薬品企業の科学者らは現在、最初のワクチンで何が問題だったかを理解したと確信し、過剰な炎症を招くことなく免疫反応を引き起こすと期待される注射の試験を行っている。

米食品医薬品局(FDA)は、最初の2つのワクチンをファストトラック(優先審査)の対象に定めた。

ボストンの医療組織、マス・ジェネラル・ブリガムのアルツハイマー病研究者、レイサ・スペリング博士は、同病の予防を研究する上でワクチンが重要な役割を果たすと考えている。「われわれが進むべき道はこれだ、と強く思っている」と話す。

スペリング氏は、アルツハイマーのタンパク質を脳に持ちながら認知機能が正常な人々を対象とした試験を率いている。血液中にアルツハイマー病たんぱく白を持つが、脳スキャンに記録されるほどではない無症状の人々を対象とした次の研究に向け、ワクチンを検討中だ。

アルツハイマーワクチンの開発はまだ初期段階にあり、有効性が示されるまでには、数年間にわたる大規模な臨床試験が必要となるだろう。

それでも、四半期に1度、あるいは年に2度投与するワクチンが登場すれば、アルツハイマー患者は月に2回点滴する高価なレケンビから解放されるだろう。世界中で推定3900万人に上る患者が、投与を受けやすくなる可能性がある。

米国立衛生研究所の神経疾患部門ディレクター、ウォルター・コロシェッツ博士は「世界中に広がり、さほど高くないものになる可能性がある」と期待を示した。

SDGs
2100年には「寿司」がなくなる?...斎藤佑樹×佐座槙苗と学ぶ「サステナビリティ」 スポーツ界にも危機が迫る!?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インフレ小幅下振れ容認、物価低迷に至らず=シュナー

ビジネス

エネルギー貯蔵、「ブームサイクル」突入も AI需要

ワールド

英保健相、スターマー首相降ろし否定 英国債・ポンド

ビジネス

ロシア、初の人民元建て国内債を12月発行 企業保有
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 6
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 7
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 8
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 9
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中