最新記事
北朝鮮

金正恩一家の聖地が、若者の「映えスポット」化...露骨な「愛の行為」にふけるカップルには厳罰も

2023年9月27日(水)18時34分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載
北朝鮮の咸鏡北道・会寧の風景

北朝鮮の咸鏡北道・会寧の風景(2013年8月) Jacky Chen-Reuters

<金日成夫人の金正淑氏の故郷であり、革命の伝統の故郷と呼ばれている咸鏡北道の会寧での追悼行事で当局が異例の「警告」を発した>

北朝鮮で「革命史跡地」と言えば、故金日成主席など金氏一家がかかわっていた抗日パルチザン運動や、建国後の歩みなどにちなむ場所を指す。文化財扱いされており、その保護が法で定められている。2021年4月に採択された革命史跡事業法の第2条は、次のように定めている。


第2条(定義) 革命史跡事業は、偉大なる首領金日成同志と偉大なる領導者金正日同志、敬愛する金正恩同志の栄養燦然たる革命の歴史と不滅の革命の業績を代々しっかりと擁護、固守して、継承、発展させていくための聖なる事業であり、人民のチュチェ(主体)の革命の伝統でしっかりと武装させるための栄誉かつ重要な事業である。

また、第6条では次のように定めている。


第6条(革命史跡の神聖不可侵原則) 革命史跡は誰であろうとも毀損してはならず神聖不可侵だ。国はわれわれの革命の万年財宝である革命史跡をあらゆる手段で決死擁護しなければならない。

人々が飢えに苦しむ中でも、革命史跡地の整備予算を食糧購入に回すなどということは、考えられない。電気が供給されず、人々が真っ暗闇の中で暮らしていても、金日成氏の銅像だけは、煌々と光り輝き、その光を絶やすことは絶対にあってはならないのだ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)には、そんな革命史跡地が多数存在する。金日成夫人の金正淑(キム・ジョンスク)氏の故郷で、革命の伝統の故郷と呼ばれている。建国直後の1949年9月22日に、死産に伴う出血多量で亡くなったが、その日は哀悼の日とされている。彼女の生家は、革命史跡地として保存されているが、その趣旨からまったく外れた用途で地元の若者たちに利用されているという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

追悼行事で発された若者たちへの「警告」

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、金正淑氏が亡くなってから74年となる今月21日と22日の2日間、会寧製紙工場に務める社会主義愛国青年同盟のメンバーが、生家の前で追悼行事を行った。

生家を見学し、その生い立ち、抗日パルチザン活動に身を投じて、金日成氏を命がけで守りぬいたという革命活動に関する解説を聞き、前庭で、彼女の忠誠心に学び、最高尊厳(金正恩氏)を命がけで守りぬこうという教育を受けるという内容だった。

行事を主催した朝鮮労働党咸鏡北道委員会の幹部は、若者に対してこんな警告を発した。

「若者たちの思想が変質し、生家と銅像の周辺で平気で手をつないだり、露骨な恋愛をしたりする現象が増えている。今後このような行為が摘発されれば、反党、反革命分子として厳罰に処する」

革命の聖地のデートスポット化は、地方都市では決して珍しい光景ではなかった。比較的よく整備・管理されている建物を、男女が「逢瀬の場」として使い、当局に摘発された例が他の地方でも報告されているのだ。

(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命

東京アメリカンクラブ
一夜だけ、会員制クラブの扉が開いた──東京アメリカンクラブ「バンケットショーケース」で出会う、理想のパーティー
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 8
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中