最新記事

北朝鮮

実は中露より高リスク、「1つ間違えれば核戦争」...北朝鮮問題の解決へ「意外と取り組みやすい」第一歩とは?

THINK ABOUT A PEACE TREATY

2023年8月24日(木)11時48分
トム・オコナー(米国版シニアライター)

以後、金正恩はひたすら弾道ミサイルの発射実験を繰り返してきた。一方で、アメリカと韓国は大規模な合同軍事演習を再開し、核兵器を韓国に再配備する協議も再開した。

70年の歳月を経て再び朝鮮半島で戦争が始まるリスクがあるのだが、その背景には「外交努力も関係改善の意欲もなく、かつアメリカも韓国も北朝鮮も核抑止力ばかりを過大に重視してきた事実」があると、アウムは考える。

しかも「核抑止力への過剰な依存は北東アジア地域における軍拡競争を招くだけでなく、誤解や意思疎通の不足が生じるリスクを高め、意図せざる核戦争を誘発しかねない」。アウムはそう警告する。

2つの正反対な北朝鮮法案

そうしたリスクがあればこそ、バイデン米政権は北朝鮮と「前提条件なし」で対話する用意があると強調している。だが、その対話の議題はもっぱら「朝鮮半島の非核化」だ。その点は、国家安全保障担当のジェイク・サリバン米大統領補佐官も繰り返し念を押している。

無条件対話のテーマに平和条約の話は含まれないのだろうか。この点を米国務省にただすと、意外と柔軟な答えが返ってきた。

「『前提条件なし』と言う以上、双方が関心を持つ話題であればどんな対話も歓迎する」と、国務省のある報道官は言った。「あの地域の安全保障状況に対処するために、双方が取り得る現実に即した措置についての議論も含まれる」

この報道官は「北朝鮮が前例のない数の弾道ミサイルを発射している現状でも、アメリカは外交努力を続けている」と言い、「大量破壊兵器やミサイルに関する協議とは別に、人道支援ではいつでも協力する用意があると明確にしている」と述べた上で、「北朝鮮との関係で究極の目標は朝鮮半島の平和と繁栄だ」と付け加えた。

しかし、韓国政府の姿勢は以前と同じではない。前任の文在寅は南北対話を重視していたが、現大統領の尹錫悦(ユン・ソンニョル)は核の抑止力を重視し、北朝鮮における人権状況への批判を強めている。

「北朝鮮は多くの国連安保理決議を無視して挑発行為を続けている」と、韓国外務省の報道官は本誌に語った。

「北朝鮮は核とミサイルによる威嚇を行い、朝鮮半島の緊張をエスカレートさせる一方で、韓国とアメリカによる無条件対話の申し入れを拒否している。このような状況がある以上、最優先にすべきは北朝鮮の非核化であり、平和条約を議論するのは時期尚早だ。北朝鮮による核とミサイルの脅威が続く限り、たとえ平和条約に署名しても、そんなものは偽りの平和宣言にすぎない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

OPECプラス、2日会合はリヤドで一部対面開催か=

ワールド

アングル:デモやめ政界へ、欧州議会目指すグレタ世代

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 3

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「極超音速ミサイル搭載艇」を撃沈...当局が動画を公開

  • 4

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 5

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 6

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 7

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 7

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中