最新記事

ウクライナ戦争

ウクライナの子供たち2万人を拉致...未曽有の戦争犯罪に突き進むプーチンの目的とは?

UKRAINE’S STOLEN CHILDREN

2023年8月2日(水)15時00分
東野篤子(筑波大学教授)
プーチン大統領(左)とリボワベロワ大統領全権代表(右)

子供連れ去りに関してICCはプーチン大統領(左)とリボワベロワ大統領全権代表(右)に逮捕状を出した MIKHAIL METZELーPOOLーSPUTNIKーREUTERS

<ロシア占領下のウクライナから1万9000人の子供たちが連れ去られた。プーチンの真の目的は何なのか。本誌「ルポ ウクライナ子供拉致」特集より>

ロシアによるウクライナ侵略で顕在化した深刻な問題の1つに、「子供の連れ去り」がある。

ウクライナ当局によれば、これまでに少なくとも1万9000人のウクライナ人の子供たちがロシア支配地域およびロシア本土に連れ去られているという。そのうち、帰還を果たした子供たちの数はわずか400人足らずといわれ、一度連れ去られてしまった子供たちを取り返すのは容易なことではない。

子供の連れ去りは、ロシアによる侵略開始後、ロシアの支配下に入ったウクライナの東部・南部4州の各所で報告されている。侵略開始からわずか2カ月後の2022年4月の段階では、激戦地となったマリウポリからの女性や子供の連れ去りが英メディアによって報じられ始めた。

その後、同年夏には「子供たちを安全な場所に避難させる」という名目の下、「夏季キャンプ」と称して占領地域の多くの子供たちが連れ去られたことが発覚した。また同年10月には、ウクライナ軍が東部ハルキウ州奪還作戦を進めるなか、撤退間際のロシア軍が急きょ、地域の子供たちをいったん学校に集め、その後集団で連れ去ったという報告もある。連れ去られた先として挙げられるのは、ロシアが14年以降支配を続けるクリミア半島やロシア本土が多い。広大なロシアに連れ去られた子供たちを取り返すことは至難の業である。

現在ウクライナは、国際社会の協力を仰ぎながら、連れ去られた子供たちを取り返すべく全力を挙げている。奮闘しているのは、ウクライナ政府系の組織であれば「チルドレン・オブ・ウォー」、NGOであれば「セーブ・ウクライナ」など。これらの組織により、連れ去られた子供たちがどのような経験をしたのかが徐々に明らかになってきた。

連れ去られた子供たちは「レクリエーション・キャンプ」と呼ばれる施設に送られることが多い。施設の充実度はまちまちで、粗悪な環境に耐える子供も少なくなかったという。ウクライナ語の使用は許されず、ロシア語の教育が実施される。そして「あなたの親はあなたを捨てたのだ」「あなたたちはウクライナから不要だと見なされた」「ウクライナはネオナチの国だ」「ウクライナを捨ててロシア人となれ。大きくなったら祖国ロシアのために戦う兵士となれ」と繰り返し説得される子供たちもいるという。

施設を出されると、ロシア人家庭の養子となる子供も多い。その場合は姓も変更されるため、ウクライナに残された親が子供の行方をたどることは容易ではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ガザ最大の難民キャンプとラファへの攻

ビジネス

中国、超長期特別国債1兆元を発行へ 景気支援へ17

ワールド

ロシア新国防相に起用のベロウソフ氏、兵士のケア改善

ワールド

極右AfDの「潜在的過激派」分類は相当、独高裁が下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 7

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げ…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中