最新記事

スペイン

欧州に台頭する「右派ポピュリズム」に、なぜか無縁のスペイン人...「スペイン精神の底力」とは?

SPAIN IS DIFFERENT

2023年8月2日(水)12時43分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
ペドロ・サンチェス

盛り返したサンチェス(中央)。続投のカギを握るのは NACHO DOCEーREUTERS

<平和的に民主化を遂げた点でも、極右政党が政権を争う力にならない点でも「スペインは違う」...。偉大な哲学者オルテガの言葉を胸に刻む、スペイン人について>

スペインは違う──。同国の出来事については、そんなフレーズが頻繁に用いられてきた。

フランコ独裁政権後、平和的に民主制に移行して近代化を遂げた点で、スペインは本当に違った。

極右政党が政権を争う力を持たない点でも他とは違う。一時期、その違いは失われかけているように見えたが、今は何とか立ち直りつつあるようだ。

 
 
 
 

オーストリアやフランスなど、欧州の多くの国は長年、ファシスト政党の抑え込みに苦慮している。一方、スペインでは2大政党の1つ、中道右派の国民党がフランコ派を取り込み、その影響力を薄めた。

変化が起きたのは2014年だ。前年末に設立された極右政党ボックス(VOX、「声」を意味する)が、たちまち大きな支持を獲得。5年後の総選挙では、下院(全350議席)で52議席を得た。

7月23日に行われたスペインの総選挙をめぐって、ボックスはフランコ政権が終焉して以降初めて、政権に参入する極右政党になる寸前に見えた。

事前の世論調査では、サンチェス首相率いる左派連立政権を抑えて国民党が勝利する見込みで、政権樹立にはボックスとの連立が必要とされていたためだ。

だがふたを開ければ、国民党は第1党になったものの下院獲得議席は予想を下回る136議席で、ボックスは19議席減の33議席。両党合わせても過半数に届かず、国民党はボックス以外には連立候補がない。

確かに、サンチェスが党首を務める中道左派のスペイン社会労働党と、連立相手となる左派連合スマール(SUMAR)の合計獲得議席は153議席で、こちらも過半数に届かない。

ただし、バスクやカタルーニャの民族主義地域政党とも手を組めば、再び政権を握れる可能性がある。

サンチェスが続投のチャンスをなんとか引き出せたのは、比較的好調な経済実績のおかげだ。サンチェス政権はインフレを抑制し、着実な経済成長を実現。21年と22年のGDP成長率はいずれも前年比約5.5%で、ユーロ圏トップクラスだ。

もちろん、全てがばら色ではない。失業率は今もEU最悪レベルの12.7%で、ほかの欧州各国と同様、高金利のせいで住宅ローン利用者は追い詰められている。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ニューカレドニアに非常事態宣言、暴動の死者4人に 

ワールド

再送-EU、ジョージアに「スパイ法案」撤回要請 「

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、米CPI伸び鈍化で9月利下

ビジネス

米シスコ、5─7月期売上高見通し予想上回る 企業支
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中