最新記事
核放棄

裏切られたアメリカの安全保障──ウクライナ核放棄のケース

Bill Clinton: My Nuke Deal To Blame for Russia's Invasion of Ukraine

2023年4月6日(木)15時50分
エリー・クック

歴史的な核放棄に合意した3カ国首脳──(左から)クリントン、エリツィン、ウクライナのクラフチュク大統領(1994年1月14日)

<ウクライナに核兵器があればロシアの侵攻はなかっただろう。それでも放棄したのは、アメリカとイギリスとそしてロシアが国境の安全を保証したからだ>

ビル・クリントン米元大統領が、ウクライナがロシアの侵略を受けていることに「個人的な関わり」、つまり責任を感じていると語った。冷戦終結後、核兵器を放棄するようウクライナを説得したのはクリントンだからだ。

クリントンはアイルランドの公共放送「RTÉ」のインタビューの中で、「これは個人的に関わりのある問題だと感じている。ウクライナに核兵器の放棄に合意させたのは私だからだ」と述べた。「ウクライナが今も核兵器を保有していたら、ロシアがウクライナ侵攻という大胆な行動に出ることはなかっただろう」

ソ連崩壊後も、ウクライナ領内には旧ソ連時代に配備された大量の核兵器が残されていた。1994年、ウクライナは核拡散防止条約(NPT)に加盟し、領内にある核兵器を放棄することに合意した。

ウクライナが今も核兵器を保有していたら、2022年2月にロシア軍のウクライナ侵攻はなかったと考える者もいる。ウクライナ議会のオレクシー・ゴンチャレンコ議員は以前、ロシアとの戦闘が本格化した時に米FOXニュースに対し、「ウクライナはかつて世界3位の核兵器大国だった。それを1994年に放棄した。そんな国は人類史上、ウクライナしかない」と語った。

米英ロは安全を保障を約束した

ゴンチャレンコはさらに、ウクライナ政府が核を放棄したのは「アメリカ、イギリスとロシアによる保障があったから」だとつけ加えた。「あの保障はどこに行ったのか。今、ウクライナは爆撃を受け、人々が殺されている」

だが一方には、たとえウクライナが核兵器を手放さなくても、今回の戦争の流れを変えることはできなかっただろうと反論する専門家もいる。英ロンドン大学キングズ・カレッジで拡散金融を専門とするクララ・ゲスト研究助手は2022年3月、冷戦後に独立したばかりだったウクライナには資金が不足しており、「(国内に残っていた)核兵器および関連施設の維持や、新たな部品の製造を行うことはできなかっただろう」と指摘した。

1994年1月、クリントンとロシアのボリス・エリツィン大統領(当時)とウクライナのレナ・クラフチュク大統領(当時)が「3カ国声明」に署名。その後さらに「ブダペスト覚書」によって、ロシア、アメリカとイギリスがウクライナに対して、核兵器の放棄と引き換えに安全保障を約束した。

「ウクライナに核兵器を放棄させるためにエリツィンが合意した領土保全を、プーチン大統領が支持していないことは分かっていた」とクリントンは語った。

ビジネス
栄養価の高い「どじょう」を休耕田で養殖し、来たるべき日本の食糧危機に立ち向かう
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

エルサルバドルへの誤送還問題、トランプ氏「協議して

ワールド

米民間セクター代表団、グリーンランドを今週訪問 投

ビジネス

伊プラダ第1四半期売上高は予想超え、ミュウミュウ部

ワールド

ロシア、貿易戦争想定の経済予測を初公表 25年成長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中