最新記事

ブラジル

ブラジル議会襲撃の陰で米極右スティーブ・バノンはいかに暗躍したか

Steve Bannon's connection to Brazil insurrection by Bolsonaro supporters

2023年1月10日(火)18時51分
イワン・パーマー

アメリカの右派の集会で演説するバノン(2022年12月20日,アリゾナ州フェニックス)  Jim Urquhart-REUTERS

<トランプの元側近であるバノンは「ブラジルのトランプ」ボルソナロの大統領選敗北も「選挙不正が原因」だと繰り返し主張していた>

選挙に敗北した前大統領を支持する右翼の群集が選挙は不正と主張して、議会を襲撃する――1月8日にブラジルの首都ブラジリアで起きたこの事態は、2021年1月6日にアメリカで起きた連邦議会襲撃事件に酷似している。そして2年前と同様に今回も、ドナルド・トランプ前米大統領の元主席戦略官だった極右スティーブ・バノンが、この事件に絡んでいると指摘されている。

ブラジルのジャイル・ボルソナロ前大統領の支持者たちは8日午後、議会や最高裁、大統領府を襲撃した。ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領の就任式から1週間というタイミングで起きたこの騒動のなか、国旗の緑と黄色を身にまとった何千人ものボルソナロ支持者が民主主義を象徴する建物を荒らして回り、ボルソナロの復権を要求した。

ボルソナロの政治手法は「ブラジルのトランプ」と呼ばれるほど似ていた


ブラジルでは2022年10月に大統領選挙が実施され、ボルソナロが敗北。しかしボルソナロとその支持者たちは、不正投票により選挙結果が操作されたという主張を押し通して敗北を認めず、抗議を続けてきた。

こうしたなかバノンは、2020年の米大統領選でトランプが敗北した時にもそうしたように、ブラジル大統領選の正当性に対する疑念をブラジルの人々に唱え続けてきた。

議会襲撃のデモ隊は「自由の戦士」

バノンは2020年の米大統領選で右翼の陰謀論者たちが主張したのと同じように、ブラジルの電子投票システムは「ボルソナロから選挙を盗む」ためのものだと主張してきた。8日にボルソナロの支持者が政府建物を襲撃した後も、この主張を繰り返した。

彼はソーシャルメディア「Gettr(ゲッター)」のアカウントに繰り返し、「ルラは選挙を盗んだ。ブラジル国民はそのことを知っている」と投稿し、ボルソナロの支持者による政府建物の襲撃に関するリンクを共有。彼らを「自由の戦士」と称えた。「犯罪者で無神論者でマルクス主義者のルラが選挙を盗んだ。ブラジル国民はそれを知っている。ルラは、あらゆる共産主義の独裁者と同じように弾圧を行っている」と煽った。

バノンは2022年10月にボルソナロが選挙で敗北した直後にも、Gettrへの投稿の中で、ブラジルの選挙が「白昼堂々盗まれた」と主張していた。バノンはかねてから、ボルソナロと、ブラジル大統領選の結果を操作しようとする彼の試みとのつながりを指摘されてきた。

米ワシントン・ポスト紙は2022年11月、ボルソナロの大統領選敗北を受けて、彼の息子でブラジル下院議員のエドゥアルド・ボルソナロがバノンと話をしたと報じた。バノンはボルソナロ陣営に助言を行っていた。バノンは当時、アリゾナ州知事選の共和党候補カリ・レークの選挙運動を手伝っており、エドゥアルドがアリゾナ州まで出向いたとされている。ちなみに、トランプの忠実な支持者であるレークはこの知事選で民主党の候補に敗れており、彼女もまた自分が敗北した理由は選挙の不正だと主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクGの1―3月期純利益2310億円、2四

ワールド

アングル:ドイツで政治家標的の暴行事件急増、背景に

ビジネス

お知らせー重複記事を削除します

ビジネス

UBSのAT1債、50億ドル相当が株式転換可能に 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 7

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中