最新記事

中国

中国「脱ゼロコロナ」が曖昧すぎる最大の理由は、mRNAワクチンの不承認

CHINA’S ZERO-COVID MUDDLE

2022年12月12日(月)12時55分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)
ゼロコロナ

北京の鉄道駅の近くでマスクを着けてたたずむ人々(12月8日) AP/AFLO

<中国政府はゼロコロナからの脱却を表明したが、規制緩和には一貫性がなく、地方により異なる。公衆衛生が政治の犠牲になっている。このままでは感染が再拡大し、医療システムの崩壊を招くだろう>

中国がデモに揺れている。これだけ大規模で政治的なデモが起きたのは、1989年の天安門事件につながった騒乱以来のことだ。

目下の事態は驚くことではない。中国政府の厳しい「ゼロコロナ政策」には、国民の不満が長いこと高まっていた。それでも習近平(シー・チンピン)国家主席率いる指導部は、デモの高まりを予期していなかった。

この事態を受けて、中国政府はゼロコロナからの脱却を加速させると表明。11月に発表した20項目の緩和策に加え、10項目の追加措置を発表した。

政府は一連の抗議デモに対し、天安門事件のときのような強硬策は控えている。デモの現場に大勢の警察官を配備しているが、正面衝突は避け、携帯電話のデータを追跡して参加者を威嚇する程度だ。

だが共産党指導部は、今後「断固たる取り締まり」を行うとも警告している。

国家安全相の陳文清(チェン・ウエンチン)によれば、当局は今後「敵対勢力による潜入・破壊工作」や「社会秩序を乱す違法・犯罪行為」を取り締まる考えだ。

このように中国政府は、抗議デモへの対応について比較的明確なメッセージを発しているが、ゼロコロナに関しての発信は曖昧で一貫性がない。

規制緩和は始まったが、当初は広州や上海など一部の都市でしか導入されていない(それでも国営メディアからは「ゼロコロナ政策」という言葉が聞かれなくなったようだ)。

不明確な状態が続いているのは、中国政府の高官が誰一人としてゼロコロナ政策の全面的な廃止を公言していないからだ。

彼らがゼロコロナ政策について明確な立場を示さないのは、政治的な理由による。政府は、規制緩和によって感染が再び拡大し、入院者や死亡者が増えた場合に責任を問われたくないと考えている。

地方の当局者も政治的な計算で動いている。公衆衛生に対するリスクより自分が得られる利益のほうが大きいと考える当局者は規制緩和に踏み切る。感染が再拡大すれば自分が損をすることのほうが多いと計算した者は規制を維持している。

だが公衆衛生が政治の犠牲になっている最大の要因は、中国当局が効果の高い欧米のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンを認めていないことだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

鈴木財務相「財政圧迫する可能性」、市場動向注視と日

ワールド

UCLAの親パレスチナ派襲撃事件で初の逮捕者、18

ワールド

パプアニューギニアで大規模な地すべり、300人以上

ワールド

米、ウクライナに2.75億ドル追加軍事支援 「ハイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 3

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシア装甲車2台...同時に地雷を踏んだ瞬間をウクライナが公開

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    なぜ? 大胆なマタニティルックを次々披露するヘイリ…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリ…

  • 8

    これ以上の「動員」は無理か...プーチン大統領、「現…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中