最新記事

核ミサイル防衛

ICBMで核攻撃されたらアメリカも身を守れない

Is the U.S. Safe From Nuclear Attack?

2022年10月24日(月)16時17分
ジェームズ・ビッケルトン

アメリカの対ICBM地上配備型ミサイル防衛(GMD)実験(2017、カリフォルニア) Lucy Nicholson-REUTERS

<ウクライナの戦争で核の使用が取り沙汰される時代になったが、アメリカ本土の核防衛は実は穴だらけだ>

ロシアのウクライナ侵攻をめぐる緊張が世界中で高まり、核兵器が使われる可能性すら議論されるなかで、アメリカは核攻撃から身を守ることができるのかという疑問が浮上している。

残念ながら、その答えは一言でいえるほど単純ではない。アメリカには地上配備型ミサイル防衛(GMD)と呼ばれる対核兵器防衛システムがあり、北朝鮮の核ミサイルであれば打ち落とすことができるかもしれない。だがはるかに大規模で高度な核兵器を保有するロシアや中国がミサイルを大量に撃ち込んでくれば、簡単に打ちのめされてしまうだろう。

アメリカは膨大な量の核兵器を保有している。これは、核攻撃を受けないようにするための相互確証破壊(MAD)のドクトリンに基づく抑止策だ。アメリカに向かって核ミサイルを発射する国は、防衛が不可能なほど迅速に、圧倒的な量の核ミサイルで反撃されることを覚悟しなければならない。

ロシアも中国も、アメリカに対して核兵器を使用すると真剣に脅したことはない。しかし、ウクライナや台湾をめぐる緊張が高まるにつれ、将来的には状況は変わるかもしれない。

ICBMの迎撃はほぼ不可能

核戦争防止についての著作もあるワシントン大学のデビッド・バラシュ教授(心理学)は、核搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)を、アメリカが撃ち落とすことができる可能性は「極めて低い」と本誌に語った。

「ウクライナでの『対ミサイル防衛システム』がほどほどに成功したからといって、惑わされてはいけない」と、バラシュは言う。「現在、攻撃が想定されているのはほとんどが時速500キロ程度の巡航ミサイルだが、大気圏に再突入する弾道ミサイルは時速1万5000キロに達する」。

「ミサイルの迎撃は桁外れに難しい。フルシチョフはそれを『弾丸に弾丸を当てる』ようなもの、と表現した。それ以来、対ミサイル技術は進化したが、攻撃技術も進化した。どの国にとっても、ICBMの迎撃に成功する見込みは極めて低い」と、彼は言う。

「アメリカでテストされたABM(対弾道ミサイル)システムの成功率は50%をかなり下回っていた。しかもそのテストでは、ABMのオペレーターがミサイルのルートと、ミサイルが迎撃システムの射程に「入ってくる」時と地点を事前に知っていた。この分野では攻撃側が圧倒的に有利だ」と、バラシュは言う。

「ICBM1基でも、複数の多目標核弾頭(MIRV)を搭載し、防衛力を圧倒することができる。この弾頭には機動性があり、防御用レーダーを混乱させるための「チャフ」(金属片のようなもの)を搭載できる。最も重要なことは、大破壊を引き起こすためには、ごく少数の兵器を使うだけでいいということだ。唯一の安全策は、核兵器が決して使われないようにすることだ」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

銅に50%の関税へ、8日発表=トランプ氏

ワールド

BRICS諸国に「近く」10%の関税=トランプ氏

ワールド

プーチン氏に不満、対ロシア追加制裁を検討=トランプ

ワールド

英国王、仏大統領を国賓招待 ブレグジット後初のEU
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワールドの大統領人形が遂に「作り直し」に、比較写真にSNS爆笑
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事件の現場から浮かび上がる「2つの条件」
  • 4
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    トランプ、日本に25%の関税...交渉期限は8月1日まで…
  • 7
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 8
    【クイズ】世界で最も売上が高い「キャラクタービジ…
  • 9
    トランプ税制改革の「壊滅的影響」...富裕層への減税…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中