最新記事

人権問題

ミャンマーで拘束されたジャーナリスト久保田氏に初公判 追加訴追で拘束長期化の恐れも

2022年8月18日(木)17時30分
大塚智彦
ミャンマーで拘束された久保田徹氏のポスター

ミャンマーで拘束された久保田さんが解放される日はいつになるのか? Issei Kato / REUTERS

<早期解放を求める働きかけに国軍が耳を傾ける日はいつか──>

軍事政権の強い影響力の下にあるミャンマーの裁判所は8月16日、中心都市ヤンゴンにあるインセン刑務所内に特設された裁判所で日本人映像ジャーナリストの久保田徹氏(26歳)に対する初公判を非公開で開いた。

公判の様子などは明らかになっていないが、国軍のゾー・ミン・トゥン報道官は17日に会見して「法は順守されなければならない」としたうえで久保田氏に対する新たな容疑での訴追の可能性を示唆し、久保田氏の釈放が当初の予想に反して長引く可能性が浮上している。

久保田氏は7月14日にミャンマーに観光ビザに入国し、同月30日にヤンゴン市内南ダゴン郡区で行われた「フラッシュ・モブ」といわれる反軍政を掲げる民主派によるゲリラ的、短時間、少人数の抵抗デモの様子を撮影取材中に近くにいた警察官に拘束、逮捕された。

この際、通訳・コーディネーターとみられるミャンマー人2人も同時に身柄を拘束されたが、この2人は現在も逮捕されたままで消息も明らかではないという。

通常「フラッシュ・モブ」といわれる民主派のデモは治安当局の目を逃れるために場所や時間、参加人数などは直前まで秘密にされて行われる。

久保田氏が事前にこのデモの情報を得て現場で取材していて警察官に逮捕されたという状況から、久保田氏の行動が入国以来治安当局の監視下にあったか、当局のスパイがその動きを伝えていた可能性もゼロとは言い切れない。民主派の動きやメディア、特に外国メディアに対する締め付け、監視は日ごとに厳しくなっているミャンマーの情勢を久保田氏が読み誤ったのではなかいとの見方もでている状況だ。

久保田氏の逮捕容疑は観光ビザでの取材活動が「資格外活動」に当たるとする入国管理法違反容疑と刑法505条の「社会秩序を乱そうとする行為」に基づく扇動罪容疑とされ、8月16日の初公判ではこうした容疑での審理が行われたとみられている。

ところがゾー・ミン・トゥン国軍報道官は久保田氏がデモを取材していただけでなく自身も参加していたと指摘。また過去に西部ラカイン州に多数住む少数イスラム教徒のロヒンギャ族の取材をしていたことも把握しておりこれを重視、電子通信法違反容疑での訴追を受ける可能性もあるという。

ロヒンギャ族はミャンマー国軍から差別、虐待を受けて100万人に近くが国境を接するバングラディシュに越境避難して難民キャンプでの不自由な生活を続けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中