最新記事

再生医療

世界初、患者の細胞をもとにバイオ3Dプリンターで作製し、耳の再建に成功

2022年6月10日(金)19時15分
松岡由希子

患者の耳から軟骨細胞を採取し、細胞培養システムで増殖させた 3DBio Therapeutics

<患者の耳介の軟骨細胞をもとに3Dバイオプリンティング技術を用いて作製した独自のインプラントで小耳症患者の耳介再建が初めて行われた......>

米コーネル大学の卒業生らが2014年に創設した再生医療ベンチャーの3Dバイオ・セラピューティクスは、2022年6月2日、患者自身の耳介(耳の外に張り出て飛び出している部分)の軟骨細胞をもとに3Dバイオプリンティング技術を用いて作製した独自のインプラント「オーリノボ」で小耳症患者の耳介再建を初めて行ったことを明らかにした。

患者の耳から軟骨細胞を採取し、細胞培養システムで増殖

小耳症とは、一方もしくは両方の耳介が生まれつき小さいか欠けている状態をいい、欠損の状態によって第一度から第四度の無耳症(耳介がない状態)まで4類型に分類される。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、米国では推定約2000~1万人に1人が発症しているという。

小耳症患者の耳介再建には、患者から採取した肋軟骨で耳介のフレームを作製して移植する方法と、多孔質ポリエチレン(PPE)のインプラントを用いる方法が知られる。第二度から第四度の小耳症患者の耳介再建に向けて開発された「オーリノボ」は、前者に比べて患者への負担が軽く、後者よりも適応性があるのが利点だ。

具体的には、患者の耳の形状に合わせるため、欠損していない側の耳を3Dスキャンした後、患者の耳から0.5グラムの軟骨細胞を採取し、これを特殊な細胞培養システムで増殖させる。さらに、これをコラーゲンベースのバイオインク「コルビボ」と混ぜ、バイオ3Dプリンターで耳介のインプラントを作製し、患者の耳の皮下に埋め込む。移植された耳介は時間の経過とともに自然な外観や感覚となっていく。

将来的には、乳房再建や臓器移植へ

今回の耳介再建の執刀医であるテキサス州サンアントニオの小耳症専門小児形成外科医アルトゥーロ・ボニーヤ医師は「これまで国内外の多くの小耳症の子どもたちを治療してきた医師として、この技術が患者やその家族にどのような意味をもたらすのだろうかとワクワクする」とし、「私の望みは『オーリノボ』がいつか耳介再建の標準治療となることだ」と大いに期待を寄せている。

「オーリノボ」の第一相/初期第二相臨床試験には、ボニーヤ医師とカリフォルニア州ロサンゼルスのシダーズ・サイナイ医療センターのジョン・ライニッシュ医師のもと、患者11人が参加。小耳症患者への「オーリノボ」の安全性や予備的有効性の評価がすすめられている。

3Dバイオ・セラピューティクスでは、当面、外鼻欠損や脊椎変性の治療といった再建外科や整形外科の分野での活用に注力する方針だが、将来的には、乳房再建や臓器移植への応用も視野に入れている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏総選挙、極右優勢も過半数届かない公算 与党連合半

ワールド

欧州委委員長が続投へ「支持固め」開始、右派躍進の欧

ビジネス

再送-米長期債に慎重姿勢、高水準の財政赤字継続で=

ビジネス

BMWの違法中国部品搭載車問題、米上院財政委員長が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...? 史上最強の抗酸化物質を多く含むあの魚

  • 2

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっかり」でウクライナのドローン突撃を許し大爆発する映像

  • 3

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬で決着 「圧倒的勝者」はどっち?

  • 4

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 5

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 6

    「私の心の王」...ヨルダン・ラーニア王妃が最愛の夫…

  • 7

    高さ27mの断崖から身一つでダイブ 「命知らずの超人…

  • 8

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 9

    公園で子供を遊ばせていた母親が「危険すぎる瞬間」…

  • 10

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 3

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 6

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 7

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 8

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 10

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中