最新記事

ウクライナ侵攻

反プーチン派に残ったのは絶望と恐怖と無力感...ロシア国民の本音とは【現地報告】

BACK TO THE U.S.S.R.

2022年4月28日(木)17時35分
アンナ・ネムツォーワ(米オンライン誌「デイリー・ビースト」モスクワ支局員)
戦争反対プラカード

モスクワ市内で「プーチンにニュルンベルク(裁判)を。戦争反対」とプラカードを掲げる人(2月24日) Newsweek Japan

<報道統制でウクライナ侵攻を知らない国民。エリート層は国外逃避し、庶民は経済苦に。彼らは「プーチンの戦争」をどこまで支える?>

数は少なかった。若者に、中年の人も交じっていた。みんな恐る恐るではあるが、それでも戦争反対の意思を示そうと集まってきた。すると、たちまち警官隊が彼らを取り囲んだ。「戦争反対」と叫んだり、そんなスローガンを掲げた横断幕を広げるそぶりを見せたら、問答無用で検挙するつもりだった。

3月20日の日曜日、ロシアの飛び地カリーニングラードの、その名も「自由広場」でのことだ。独立系の写真エージェンシーを経営するアンナ(42)は、その光景をロシア正教の救世主ハリストス大聖堂の正面階段に立って見つめていた。ウクライナでは何百万もの市民が家やアパートを焼かれて逃げ惑っている。そして、ここロシアではそんな蛮行に抗議するだけで警察に引っ立てられる。「つくづく気がめいる」。アンナは本誌にそう語った。

この国の歴史は、国民の血で塗られている。ロシア人なら誰でも、1930年代のスターリンによる「大粛清」で無数の市民が秘密警察に処刑されたことを知っている。当時は隣人が隣人について告げ口し、すると秘密警察の黒い車(カラスと呼ばれていた)がやって来て、その人を強制収容所へ送り込んだものだ。

ウラジーミル・プーチンが君臨する今のロシアでも、戦争反対の意思表示は命取りとなる。当局は反対意見や自由な報道を封じる厳しい法律を制定した。

ウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼ばずに「戦争」と言っただけで、禁錮15年の刑を食らいかねない。この日の2週間前の日曜である3月6日だけでも、全国69都市で5000人以上の反戦派市民が身柄を拘束された。

2月24日にウクライナ侵攻が始まった時点では、ロシア国内の状況がここまで厳しくなるとは誰も予想していなかった。しかし侵攻翌日に欧州評議会がロシアの投票権を一時停止すると、プーチンの盟友で前大統領のドミトリー・メドベージェフは言ってのけた。そろそろ国内で、死刑を復活させる時期かもしれないと。

ウクライナ侵攻直後からパニックが発生

アンナによると、市民の間ではウクライナ侵攻直後からパニックが起きていた。「預金を全額引き出そうとする人がATMに殺到し、銀行では現金が足りなくなった」

旧ソ連の「鉄のカーテン」は、ベルリンの壁もろとも1989年に崩れ落ちた。それでロシアにも自由と経済改革の新風が吹き込み、国民には移動の自由も認められた。

だが今でも、多くの国民は一度も外国に旅したことがない。平均月収は、以前から米ドル換算で500ドルに満たなかった。パスポートを持っている人はせいぜい3割程度で、ほとんどの人には外国旅行で見聞を広める経済的余裕がない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ヒット続出、ホラー映画が映画館救う 著名

ワールド

EUに8月から関税30%、トランプ氏表明 欧州委「

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 5
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 6
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 7
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 8
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 9
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 9
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中