最新記事

ウクライナ

ロシア兵は突如、11歳の少女の「あごに発砲した」...住民が語るマリウポリの非道

A REPORT FROM HELL

2022年4月6日(水)11時55分
伊藤めぐみ(ライター)
破壊されたマリウポリ

マリウポリの破壊された住宅用ビル近くを歩いて避難する人々。腐敗臭と火薬臭、焦げた臭いが混然となって街に漂う(3月30日) ALEXANDER ERMOCHENKOーREUTERS

<街の「100%」が破壊された南東部の最激戦地マリウポリ。脱出途中の人道回廊で銃撃を受けた女性が目撃したものは>

ウクライナ南東部のマリウポリは、ロシア軍による侵攻の象徴的な街になっている。包囲攻撃が行われ、産科病院や「子供」と地面に書いてあった劇場が爆撃され、「人道回廊」も十分に機能しなかった。既に5000人が亡くなったとの報道もある。

そんな包囲下のマリウポリに3週間いた女性に現地で話を聞くことができた。

「ロシア軍の検問所で止まれ!と言われた。それからロシア兵が指を空に向けてくるくると回した。どういう意味かよく分からなかったけど、取りあえず引き返そうとしたら突然、発砲された。車にいた女の子があごを撃たれた」

カテリーナ・イェスカ、31歳。ウクライナ南部のオデーサ(オデッサ)出身で夫と共に昨年12月からマリウポリに住んでいる。彼女はロシア軍の侵攻後もマリウポリにとどまることを決め、ボランティアとして食べ物や水の配給を手伝っていた。

「食べ物も水も十分にない。外で火をたいて料理している人もいた。気温はマイナス10度なのに、爆風でガラスが吹き飛ばされて窓も役に立たない。街はとても危険だった。水を得るために外を歩いているだけで狙われた」

マリウポリの街は今、80%が破壊されたといわれている。

「でも私には残りの20%がどれを指しているのか分からない。全部、破壊されたように見えるから」

3月16日、彼女は脱出を決意する。

「道である家族に出会った。女の子と母親とおばあちゃんがいて、飼い猫とハムスターと亀を連れていた。私が乗っていた車に乗せていくことにした」

しかしその車が途中、銃撃を受けた。

ロシア兵はなぜ銃撃したのか?

「直前のロシア軍の検問でチェックを受けて武器は持っていないことを確認されたばかりだった。次にあった検問は500メートルとか1キロとか、そんなに離れてはいなかった。でも、止まるように言われて、引き返そうとしたら後ろから撃たれた」

弾丸は車内にいた11歳の女の子のあごに当たり、喉仏近くに突き刺さった。女の子はザポリッジャ(ザポリージャ)の病院に運ばれた。

なぜ兵士は発砲したのか。

「兵士は私たちの車から誰かが発砲したと言った。でもおばあちゃんや小さな女の子を乗せた車よ。それに撃たれる前に発砲の音なんてどこからも聞こえなかった。これは見せしめなんだと思う。『人道回廊』は使えない。ロシア側の領地に行くか、マリウポリに残るしかないって住民に思わせるために」

カテリーナはそう力を込めて言った。

「何度でも言う。その道路は避難のために通っていいと安全が保障された道だった。通っていいという合意があった。なのに発砲した」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中