最新記事

ウクライナ

ロシアに苦しめられ続けた、知られざるウクライナ政治30年史

SEEKING DEMOCRACY

2022年3月30日(水)13時05分
フェルナンド・カサル・ベルトア(ノッティンガム大学准教授)、ジョルト・エニエディ(セントラル・ヨーロピアン大学教授)
ベルリンの親ウクライナデモ

ウクライナは世界的な民主主義防衛の戦いの最前線とも受け止められている(3月20日、ベルリン) ADAM BERRY/GETTY IMAGES

<旧ソ連から独立した民主主義国家の中でも、プーチンはウクライナを最も執拗に攻撃してきた>

今回のロシアによるウクライナ侵攻は、既にさまざまな角度から分析されてきた。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の誇大妄想が原因だとか、NATOの東方拡大がロシアを追い詰めたとか、いや、プーチンはロシア帝国を復活させたいのだ、といった具合だ。

だが、1991年8月にウクライナがソ連から独立を宣言して以来、その政党政治つまり民主主義体制がロシアの度重なる攻撃を受けてきたことは、あまり語られていない。

地理的にも政治的にも大きな国の隣に位置する国の政党政治は、その大国の政治情勢に影響を受けやすい。

例えば、モンテネグロではセルビアとの関係が、キプロスではトルコとの関係が、国内政党の対立構造を決定付けている。

同じような現象は、ソ連崩壊で誕生した民主主義国にも見られる。モルドバでは2001年以降、親ロシア陣営(共産党と社会党)と、EU加盟を目指す親欧米派(自由党と民主党)の対立構造が鮮明になった。ジョージアでは、2008年の南オセチア紛争でロシアに敗北した4年後、政権与党が国政選挙で敗北した。

だが、民主化した旧ソ連諸国のうち、ウクライナほどロシアの介入に苦しんだ国はない。その30年にわたる政党政治を振り返ると、主に3つの時代に分けることができる。

第1期は1991年の大統領選から、2004年末のオレンジ革命までだ。この時期は、しょっちゅう選挙制度が変更され、各政党も組織化されておらず、複数政党制になったといっても極めて不安定だった。

唯一の例外は共産党で、ウクライナ最高会議(定数450)で最大野党の位置を占めていた。

だが、ウクライナ議会で何より顕著なのは、無所属の議員が極めて多いことだろう。1994年の時点で168人、2002年も66人が無党派だった。

しかし1999年にロシアでプーチンが権力を握ると、その余波はすぐにウクライナにも表れた。

特に2003年のロシア下院選で、プーチン率いる政党「統一ロシア」が地滑り的な勝利を収めると、翌2004年のウクライナ大統領選では、親ロシア派と親欧米派の対立が鮮明になった。

歴史から違う東部と西部

親ロシア派の中核を成したのは、ロシア系住民が大多数を占めるドンバス地方選出の議員らが設立した与党「地域党」で、親欧米派の中心は中道右派「われらウクライナ」だ。

11月に行われた大統領選の決選投票は、地域党を率いるビクトル・ヤヌコビッチ首相と、われらウクライナを率いるビクトル・ユーシェンコ元首相の一騎討ちとなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科の債券価格が下落、1年間の償還猶予要請報道

ビジネス

午前の日経平均は反発、大幅安の反動 ハイテク株の一

ワールド

イタリア製造業PMI、11月は節目の50超え 2年

ワールド

原油先物続伸、米・ベネズエラ緊張など地政学リスクで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中