最新記事

カザフスタン

カザフ騒乱 なぜ暴徒化? なぜロシア軍? 今後どうなる?

Kazakhstan’s Instability Has Been Building for Years

2022年1月17日(月)16時20分
ラウシャン・ジャンダイェバ(カザフスタン出身、ジョージ・ワシントン大学博士課程)、アリマナ・ザンムカノバ(カザフスタン出身の研究者)

独立系メディア「ウラルスカヤ・ネデリャ」のルクパン・アクメドヤロフ編集長は、アルマトイのデモが暴徒化した理由について同国のエリート層内の争いが原因だと指摘する。

カシムジョマルト・トカエフ現大統領の派閥とナザルバエフの甥である安全保障会議副議長が地方の公安部隊に非公式な影響力を持っているため、トカエフが軍や公安のエリート層を指揮できずにいるというのだ。

「大統領は、(ロシアが主導する軍事同盟)『集団安全保障条約機構(CSTO)』に支援を要請するしかなかった......軍が自分に従わない状況下で、自分の力では対処できないと分かっているからだ」と、アクメドヤロフは言う。

今月5日、ナザルバエフに最も近い側近のカリム・マシモフ元首相が同国の治安機関である国家安全保安委員会(KNB)の議長職を解任され、8日に国家反逆容疑で逮捕されたことは、この見立てと一致する。

略奪者たちは何らかの方法でKNBの厳重な警備をかいくぐって兵器庫を手中にし、街を襲った。しかし、実際に何があったのか、また今後の展開について確かな説明は難しい。

国内の通信手段はほとんど機能しておらず、ソーシャルメディアは虚偽情報であふれているからだ。

デモが残したトラウマ

確かなことは、カザフスタンは独立後の歴史上、最も崩れやすい状況にあるということだ。

トカエフはCSTOに支援を要請し、カザフ国内にはロシア軍をはじめとする外国軍が送り込まれた。これら外国軍がデモを鎮圧できたとしても、長期的ダメージは深刻だ。

外国軍は既に撤退を開始し、1月23日以降は国内に残らないとトカエフは述べているが、まだどうなるか分からない。

ロシア軍の駐留が続けば、カザフ語を話す人々と、カザフ北部のロシア国境地域に住むロシア語人口の間の対立を加速し得る。言語による分裂は、異民族間の衝突や分離主義運動につながりかねない。

もしナザルバエフが完全に失脚したのだとしたら、現政権はナザルバエフの遺産をどう位置付け、彼の一族とどう付き合っていくつもりなのか。デモ当初からナザルバエフと彼の一族が公の場から姿を消していることは、社会不安をひたすら増幅させている。

カザフスタンの争乱は、究極的には人道問題でもある。

同国は破壊されたインフラを立て直し、助けが必要な人々に手を差し伸べ、生活必需品の流通を担保する必要がある。

また、この国の制度や、国家的安定や繁栄といった国際的なイメージの構築に、今まで以上に取り組んでいかなければならない。

1月15日時点で225人が亡くなり数千人が拘束されている。その中で政府と国民がやるべきなのは、独立後の歴史上、最も血にまみれたデモのトラウマに打ち勝つ道を探すことだ。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中