最新記事

アメリカ政治

パウエル元米国務長官がコロナ感染で死去、湾岸戦争指揮

2021年10月19日(火)08時29分
パウエル元国務長官

米国で黒人として初めて国務長官と軍制服組トップの統合参謀本部議長を務めたパウエル元国務長官が18日、死去した。写真はパウエル元国務長官。2020年8月撮影(2021年 ロイター)

米国で黒人として初めて国務長官と軍制服組トップの統合参謀本部議長を務めたパウエル元国務長官が18日、死去した。84歳だった。死因は新型コロナウイルス感染による合併症だった。家族がフェイスブックへの投稿で明らかにした。

家族によると、パウエル氏はワクチン接種を完全に済ませていた。

親しい友人によると、パウエル氏は多発性骨髄腫を患い、治療により症状が軽減・消失した「寛解」と呼ばれる状態だった。初期のパーキンソン病にもかかっていた。血液のがんである骨髄腫は人体の免疫機能を低下させ、新型コロナが重症化するリスクを高める。

パウエル氏はベトナム戦争に従軍し、負傷。87─89年にレーガン政権で国家安全保障問題担当補佐官を務め、ジョージ・ブッシュ(父)政権下の91年に統合参謀本部議長として湾岸戦争を指揮した。

その後、ブッシュ(子)元大統領の下では国務長官を務め、2003年2月5日に国連安全保障理事会で、イラクのフセイン政権が大量の化学・生物兵器を隠し持っており、世界に対する喫緊の脅威になっていると訴えた。

パウエル氏は後になって国連安保理で自身が主張した内容を振り返り、ブッシュ政権の他の当局者から提供された不正確でゆがめられた情報が多く含まれていたと認め、自身の経歴に一生残る「汚点」を残したと語った。

1996年に共和党から大統領選挙への出馬を検討したが、妻が身の安全に懸念を示したことで断念。2008年に黒人として初めて米大統領に当選した民主党のバラク・オバマ氏に対し党派を超えて支持を示した。

共和党の右傾化への懸念から、16年の大統領選でも民主党候補のクリントン氏を支持し、昨年の大統領選も共和党のトランプ氏は米国にとって危険な存在だと批判し、民主党候補のバイデン氏の支持に回った。

バイデン大統領は「大統領選でパウエル氏から受けた支持と、この国の魂のために共闘できたことに絶えず感謝している」とコメントした。

パウエル氏がコロナワクチンを接種していたことについては「非常に深刻な基礎疾患が2つあった。残念ながら(ワクチンは)効果を発揮しなかった」と述べ、国民に改めてワクチンを接種するよう呼び掛けた。

ホワイトハウスのサキ報道官は、ワクチン接種完了者の入院と死亡は「極めてまれ」だと指摘した。

ブッシュ(子)元大統領は声明で「多くの大統領がパウエル氏の助言と経験を頼りにしていた。大統領自由勲章を2度受賞するほど各大統領に愛されていた」と哀悼の意を表明。

英国のブレア元首相は、パウエル氏は自虐的なユーモアやスタッフへの優しさ、米国のために党派を超えて取り込む意欲を持っていたとし、「長年にわたり米国の軍事的、政治的リーダシップを発揮した偉大な人物だ。素晴らしい能力と誠実さを兼ね備え、非常に好感の持てる温かい人柄だった」と述べた。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

エルサルバドルへの誤送還問題、トランプ氏「協議して

ワールド

米民間セクター代表団、グリーンランドを今週訪問 投

ビジネス

伊プラダ第1四半期売上高は予想超え、ミュウミュウ部

ワールド

ロシア、貿易戦争想定の経済予測を初公表 25年成長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中