最新記事

生物

ヒトに脳炎起こす、20センチの巨大カタツムリ 10年越しに根絶 米

2021年10月21日(木)17時50分
青葉やまと

また、夜行性であり、日中の目撃情報に乏しいことも駆除の障害となってきた。通常のカタツムリは低木の上などで生活するが、アフリカマイマイは主に地上で草葉に隠れて行動する。天然の森林だけでなく、手入れされた庭から野外に放置されたガラクタの山まであらゆるところに棲みついており、徹底した発見と駆除が難しい。

暑さと乾燥に対しても強い耐性があり、少々気温が高いくらいでは個体数を減らすことがない。土を掘って身を隠し、涼しく湿った環境で高温をやり過ごすことができるためだ。フロリダが雨季に入る6月以降は、土のなかからぞろぞろと一斉に湧き出てくる光景がみられる。

探知犬が活躍

手強いアフリカマイマイとの闘いにあたり、当局は強力な味方として2頭のラブラドール・レトリバーの力を借りた。カシーとメロンと名づけられた2頭は、探知犬として半年に渡る訓練を積み、アフリカマイマイ固有の匂いを嗅ぎ分けられるようになった。その精度は、地中に潜む個体も発見できるほどだ。匂いを検知するとその場に座り込んで人間に知らせ、ご褒美のおやつを受け取る。

また、住民たちの根気強い対応も欠かせなかった。各家庭の庭にいるアフリカマイマイを発見次第、住民たちは手作業で取り除く。こうして捕獲された個体の数は、この10年間でおよそ17万匹を数える。

駆除プログラムには10年間で2400万ドル(約27億円)という巨額が投じられた。州当局は目撃データを集計し、発生地域に集中的にリソースを投入する戦略で成果につなげたという。アフリカマイマイの駆除は極めて困難であり、これまで根絶に成功した地域は世界でもフロリダ州のみとなっている。

以前はハワイ土産から大繁殖

フロリダは数十年前にもアフリカマイマイを根絶しており、今回の成功は2度目となる。以前の大繁殖については、ハワイ土産が発端となったことがわかっている。1966年にハワイから戻った幼い子供が、南フロリダにある祖母に3匹を土産として贈った。祖母が裏庭に放したところ急速に殖え、1975年には州内で数千匹が駆除される事態となる。

2011年から始まった今回の拡大については、はっきりとしたきっかけがわかっていない。マイアミ・ヘラルド紙は、2010年にナイジェリアから数十匹が密輸され、カルト団体がその粘液を治癒の儀式に使っていたと報じている。一方、これとは関係なく貨物などに紛れて到来したとする見解もあるようだ。

アフリカマイマイは世界的に問題のある外来種となっており、前述のように日本の南部にも分布する。また、この種に限らず、一部のカタツムリやナメクジなどは寄生虫の中間宿主となり得る。生き物と触れ合いたくなる気持ちは自然なものだが、安全上、極力素手で触らないように気をつけたい。

Destructive Giant African Land Snails Officially Eradicated From Florida


MIAMI BATTLES GIANT AFRICAN LAND SNAILS - Invasive Species Control

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=

ビジネス

独VW、仏ルノーとの廉価版EV共同開発協議から撤退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中