最新記事

半導体

台湾のTSMCはなぜ成功したのか?

2021年5月10日(月)10時40分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
TSMCと張忠謀会長

台湾のTSMCと張忠謀会長(2017年) Yi-ting Chung-REUTERS

台湾の半導体ファウンドリTSMCは世界の半分以上のシェアを占め米中ハイテク戦争の争奪対象となっているが、TSMCはなぜそこまで成功したのだろう。なぜ日本にはその手の企業が出てこないのか。

半導体設計と受託製造を切り離す発想

どんな企業にも創業者の苦節物語が背後にあるものだが、今では世界最大手の半導体ファウンドリ(受託製造企業)TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company、台湾積体電路製造=台積電)の創業者・張忠謀(ちょうちゅうぼう)(モリス・チャン)も例外ではない。

1931年に中国大陸の浙江省で生まれた張忠謀は、戦乱を逃れて1948年に一家で香港に移住し、1949年に渡米してハーバード大学に入学。紆余曲折のあと1958年からテキサス・インスツルメンツ(TI)で働き始め、IBMの大型コンピュータの一部品であるトランジスタ製造に当たった。良質のトランジスタ製造には多くの困難があったがそれを克服し、高い評価を得た。

1985年、台湾政府(孫運璿経済部長)から招聘されて、官民資本により1973年に設立されていた工業技術研究院の院長に就任。台湾としては当時、世界を席巻していた日本の半導体のような半導体産業を振興させ台湾の基幹産業にしたいと新竹サイエンスパークも建設していた。

しかし台湾には半導体設計を担えるような優秀な技術がなかったので、張忠謀はTIでのトランジスタ受託製造の経験から、「他社が設計した半導体を製造するという業務だけを担うファウンドリを立ち上げたい」という着想に至った。当時としては奇想天外な発想で、巨額の投資を必要とする生産ライン整備に投資をしようとする企業はなく、このころ世界に冠たる日本の半導体企業は、すべて張忠謀の申し出を断っている。

唯一賛同したのはオランダのフィリップスで、TSMCは1987年に設立された。

米シリコンバレーのベンチャー企業と共鳴

同じころ、アメリカ・カリフォルニアにあるシリコンバレーでは、小規模のベンチャー企業が誕生し、最先端の半導体設計(デザイン)に成功した企業が続々と現れたが、何せそれを半導体チップとして製造するには膨大な資金がかかる。その生産ライン確保は小さなベンチャー企業には夢のまた夢だった。

そこに現れたのがTSMCだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中