zzzzz

最新記事

BOOKS

暴力団は残るも地獄、辞めるも地獄。一般人はそれを「自分には関係ない」と言えるか

2021年3月30日(火)20時10分
印南敦史(作家、書評家)

「あの時が、最初に人に殺意抱いた瞬間やった」

いい例が、本書で紹介されている「元暴Eさん」の話だ。父親が指名手配犯で、彼が小学校に上がる前に世を去った。そのため母親に育てられるが、当時、母のお腹には妹がいた。その後、母親と内縁関係になった男から虐待を受け、Eさんは非行に走る。衝撃的なのは、妹が小学生になってからのことだ。


年少(少年院)から帰って、妹の通う小学校に行ったんですわ。すると、担任が『おまえの妹はここにおらんで』言うて、児相に行け言うとですわ。『はて、おれのようなワルとは違って、妹は大人しいんやがな』て不審に思いましたよ。で、児相に行って、『おい、兄ちゃんや、帰ったで』言うても、妹はカーテンの影に隠れよるんですわ。『なんやね、おまえ』言うて、カーテンめくったら、ショックで言葉なかったですね。小学校5年生の妹の腹が大きいやないですか。『なんや、おまえ、どないしたんや』と問い詰めますと、妹は、泣きながら『聞かんといて』言うてました。聞かんわけにいきませんがな、とうとう口割らせましてん。まあ、あの時が、最初に人に殺意抱いた瞬間やったですわ。家に入り込んで、おれを虐待したオッちゃんにやられた言いよりますねん。もう、アタマの中、真っ白ですわ。出刃持って家に帰りましたら、ケツまくって逃げた後やったです。あの時、もし、そのオッちゃんが家におったら、間違いなく殺人がおれの前歴に刻まれとった思います。(44~45ページより)

Eさんはそれから数年してヤクザになったそうだ。

これは、極端な例なのかもしれない。しかし、自分の目に入らない場所に、想像もつかないような環境で育ってきた人たちがいることだけは理解しておかねばならないだろう。

彼らには彼らの「理由」があるということだ。それをステレオタイプな基準でジャッジしたとしても、なんの解決にもならない。そういう意味でも私たちは、裏側にある「見えにくい真実」についても考えてみる必要があるのではないだろうか。

だからヤクザを辞められない――裏社会メルトダウン
 廣末 登 著
 新潮新書

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

OPECプラス、2日会合はリヤドで一部対面開催か=

ワールド

アングル:デモやめ政界へ、欧州議会目指すグレタ世代

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 3

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...痛すぎる教訓とは?

  • 4

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 5

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 6

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 7

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    「同性婚を認めると結婚制度が壊れる」は嘘、なんと…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 7

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中