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暴力団は残るも地獄、辞めるも地獄。一般人はそれを「自分には関係ない」と言えるか

2021年3月30日(火)20時10分
印南敦史(作家、書評家)

なぜ、真っ当に生きられない人間になってしまうのか? その理由のひとつとして著者は、家庭や学校で、子供の頃から生活するための訓練(躾)がなされていないことを挙げる。

事実、著者が従事している更生保護就労支援においても、「所持するお金の範囲で買い物をする」「家賃や光熱費などの固定費を収入から差し引いて月の支出計画を立てる」など、一般的に当たり前と思われていることができない人がかなりの割合で見られるのだという。

また、そうした人たちの一番の問題として、規則正しい生活ができないことが指摘されている。例えば就職しても遅刻や欠勤が多く、短期間で解雇されるか、無断欠勤の末に自ら仕事を辞めてしまうわけだ。

家庭や学校における生活訓練の機会が欠如していることは、地道な努力による将来的な目標の達成を困難にする。それが「現在がよければ=一時的な快」しか考えられない刹那的な生き方につながっているのではないか、という指摘には説得力がある。


 このような社会的ハンデにより、成功の望みの無い狭い道に追いやられた人たちが、生きるために罪を犯し、それが日常になってしまう構図を一括りに自己責任で片付けて良いものでしょうか。(39ページより)

人間には、生まれてくる家や環境を選ぶことはできない。つまり、家庭環境や貧困などに起因するハンディキャップは、それらが原因で暴力団員になった人たちにとっては「どうしようもなかったこと」である可能性がある。

本人にその自覚があるかどうかは別としても、もしそうなのだとしたら、そこには同情や共感の余地もあるはずだ。

もちろん、不幸な環境に生まれ育っても真っ当な生き方をしている人もたくさんいる。だから、それを理由に「どうしようもなかった」人たちを非難する意見も出てくるかもしれない。だが、自分の目に見えているものが社会の全てではないことを、私たちは理解すべきではないか。


不幸にも濃淡、強弱、割合というものがあります。筆者が聴取した暴力団離脱者の中には、生育環境が不幸の一言で片付けられるレベルではない人もいました。我々が当たり前に享受してきた少年時代の生活が、彼らには望めなかったのです。(40ページより)

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