最新記事

宇宙

木星の衛星「エウロパ」は暗闇でも光る!

2020年11月11日(水)18時00分
松岡由希子

木星からの高エネルギー荷電粒子とエウロパの表面の相互作用で「光る」 NASA/Jet Propulsion Lab-Caltech/SETI Institute

<木星の衛星「エウロパ」は、エウロパは太陽光が届かない夜でも明るく光る可能性があることがわかった......>

木星の衛星「エウロパ」は、月よりもわずかに小さく、主に水氷でできた地殻を持つ。その地表下には氷殻に覆われた水の海が存在するとみられ、その海に地球外生命が存在する可能性があると唱えられてきた。

アメリカ航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(JPL)の研究チームは、実験室でのシミュレーションにより、エウロパは太陽光が届かない夜でも明るく光る可能性があることを初めて示した。一連の研究成果は、2020年11月9日、学術雑誌「ネイチャーアストロノミー」で発表されている。

木星からの高エネルギー荷電粒子がエウロパの表面と相互作用

エウロパの表面の氷は、水と硫酸マグネシウム、塩化ナトリウムといった塩で組成されている。木星には強い磁場が存在することから、エウロパの表面には木星から荷電粒子(電荷を持つ粒子)が昼夜問わず降り注ぎ、木星からの高エネルギー荷電粒子が氷や塩分の豊富なエウロパの表面と相互作用して、複雑な物理的かつ化学的プロセスをもたらすと考えられている。

研究チームは、エウロパの表面の氷を模した独自の実験用氷室「ICE-HEART」を米メリーランド州ゲイザースバーグの高エネルギー電子線照射施設に持ち込み、高エネルギーの電子線をこれに照射して、高エネルギー荷電粒子の放射とエウロパの表面との相互作用をシミュレーションする実験を行った。

その結果、電子線にさらされると氷が特徴的な分光シグネチャを発し、氷の組成を変えると、照射への反応も変化し、それぞれ特有の光を放った。その光は、肉眼でやや緑色に見えることもあれば、青や白っぽく見えることもあり、組成物によって光度も変化する。塩化ナトリウムや炭酸塩があると光度が著しく低下し、瀉利塩が多いと光度が高まった。

010-europa-jupiter-2.jpg

高エネルギー荷電粒子の放射とエウロパの表面との相互作用をシミュレーションした...... Gudipati-Nature Astronomy, 2020

放射線が降り注いでいるから、エウロパは暗闇でも光る

研究論文の筆頭著者でジェット推進研究所のムールティ・グディパティ博士は「木星からの放射線がなければ、エウロパは、月と同様に、太陽光が届かない夜は暗くなるだろう。放射線が降り注いでいるから、エウロパは暗闇でも光るわけだ」とし、「エウロパの光から、エウロパの表面の組成にまつわる情報が得られる可能性がある。この組成がどのように変化しているかが、エウロパが生命体に適した条件を備えているかを探る手がかりになるかもしれない」と期待を寄せている。

アメリカ航空宇宙局では、2020年代半ばに、エウロパの探査機「エウロパ・クリッパー」を立ち上げ、木星を周回しながら、複数回にわたってエウロパの近傍を通過し、その表面を観測する計画だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=

ビジネス

独VW、仏ルノーとの廉価版EV共同開発協議から撤退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中