最新記事

米中新冷戦2020

「切り離してはならない」米中デカップリングに第2次大戦の教訓

THE GREAT DECOUPLING

2020年6月10日(水)11時50分
キース・ジョンソン、ロビー・グレイマー

ただし、パンデミックの影響がすぐに過ぎ去り、ドナルド・トランプとその保護主義的な「アメリカ・ファースト」政策が11月の米大統領選で敗れ去った場合、中国とのデカップリング論は下火になるかもしれない。アメリカにとって特に問題となりそうなのは、中国が日本に次ぐ世界2位の米国債保有国(保有高約1兆800億ドル)だという事実だ。

世界経済に迫る変化はビジネスモデルの崩壊や産業の抜本的改造など、計り知れない波紋を引き起こす。それだけではない。とりわけ中国をめぐって、予測不能な地政学的影響を招くことにもなりかねない。

中国はこの約40年間に、グローバル経済システムの下で小魚からクジラへと成長してきた。牽引役となったのが、貿易・投資分野での欧米との絆の強化だ。その絆が引き裂かれたら、東西冷戦時代的な陣営対立が復活することになりかねない。中国は既にアジア、アフリカ、欧州の一部と自国をつなぐ一帯一路構想によって、自前の経済圏の創設に取り掛かっている。

シンクタンク、新米国安全保障センターのアシュリー・フォン研究員の指摘によれば、中国はより進んだ技術を自国で開発し、欧米のサプライヤーへの依存を減らす取り組みを10年以上前に開始して以来、いわば独自のデカップリングを推し進めてきた。華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の例が示すように、多くの中国企業はアメリカと決裂しても、生き残っていく能力があることを証明している。

大規模デカップリングという考えが衝撃的なのは、過去80年間の世界は総じて、しばしばアメリカの主導の下で経済的統合を深化させてきたからだ。こうしたプロセスは、第1次大戦というグレート・デカップリングへの反動だった。

対中強硬姿勢はもはや超党派

第1次大戦の約10年後には世界恐慌が起き、それを受けて貿易障壁や経済ナショナリズムがはびこった。その結果、各国はゼロサムゲームに突入し、経済的懸念が安全保障上の脅威に化した。当時、日本は原材料需要に押されて満州を占領。それが「大東亜共栄圏」構想を生み出し、やがては資源豊富な東南アジアの占領や真珠湾攻撃につながった。ナチス・ドイツの場合も同様だ。

中国に関しては「デカップリングを唱える際、ある点を懸念すべきだ」と、ハーバード大学ケネディ政治学大学院のダニ・ロドリック教授(国際政治経済学)は語る。「経済をムチとして利用し、経済関係を地政学的競争の人質にすることだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国企業、28年までに宇宙旅行ビジネス始動へ

ワールド

焦点:笛吹けど踊らぬ中国の住宅開発融資、不動産不況

ワールド

中国人民銀、住宅ローン金利と頭金比率の引き下げを発

ワールド

米の低炭素エネルギー投資1兆ドル減、トランプ氏勝利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中