最新記事

中国共産党

新型コロナ対応で共産党支持が強固になる皮肉

2020年2月18日(火)17時20分
ジョー・キム

新型肺炎を警戒して町への部外者の侵入を妨げる市民(北京郊外) CARLOS GARCIA RAWLINS-REUTERS

<欧米メディアは独裁体制の欠陥と中国国民の怒りを取り上げるが実質はより複雑、不満の矛先を地方政府に向けさせる「トカゲの尻尾切り」によって中央政府は株を上げている>

新型コロナウイルス「COVID-19」による肺炎は、週末の時点で1500人以上の死者と6万6000人以上の感染者を中国で生んでいる。欧米のメディアでは、共産党体制への国民の支持が揺らぐ可能性を指摘する議論が目につく。「政府対国民」という二項対立の図式に基づく見方だが、これは単純過ぎる。

新型肺炎の発生源である湖北省武漢市の状況は「人道危機」と言っても過言でなく、当局の対応に問題があったことは明らかだ。しかし、中国国民全般は、大量の武漢市民が市外に脱出したことに最も不安をかき立てられている。

いま多くの中国人にとって最大の関心事は、自分たちが暮らす地区によそ者(中国語で言う「外地人」)が入ってくるのを防ぐことだ。一般市民が道路にバリケードを設けて通行を妨げたり、集合住宅の住人たちが建物への部外者の侵入を拒んだりするケースも珍しくない。

中国政府は、湖北省と武漢市に対する批判を抑え込むことはしていない(湖北省と武漢市のトップは2月13日に更迭された)。不満の矛先を地方政府に向けさせることで、中央政府への怒りを鎮めようという思惑なのだろう。

中央政府は、悪質な業者を取り締まり、無能な役人に厳しい姿勢で臨んでいる姿を国民に見せ、地方政府との違いを印象付けようとしてきた。便乗値上げをした小売業者を厳しく批判し、処罰する方針を打ち出したり、書類などの形式にこだわる役人を非難したりしている。

武漢に隣接する黄岡市の保健当局トップが状況を正確に把握していないことを露呈して批判が高まると、中央政府は調査チームを派遣。この人物を更迭した。武漢の赤十字組織「武漢市紅十字会」による病院への救援物資の分配に不適切な点があったと指摘されたときは、中央政府に処罰を求める世論が湧き起こった。

ほとんどの場合、中央政府は人々の不安や不満に素早く対処し、地方の悪い役人が生み出した問題を解決する存在と見なされている。中国国民は、地方政府と中央政府を分けて考えていると言えそうだ。

政府にとって最も大きな試練になったのは、李文亮(リー・ウェンリエン)医師をめぐる一件だった。李はいち早く新型肺炎に警鐘を鳴らしたが、「デマを流した」として武漢市公安当局から訓戒処分を受けていた。その李が新型肺炎で7日に死去すると、当局の李への扱いをめぐり国民の怒りが一挙に高まった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=主要3指数最高値、ハイテク株が高い 

ワールド

トランプ氏、職員解雇やプロジェクト削減を警告 政府

ビジネス

9月の米雇用、民間データで停滞示唆 FRBは利下げ

ビジネス

NY外為市場=ドルが対ユーロ・円で上昇、政府閉鎖の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中