最新記事

論争

慰安婦映画『主戦場』リアルバトル 「騙された」vs.「合意を果たした」

2019年6月7日(金)18時00分
朴順梨(ライター)

web190607shusenjo-4.jpg

慰安婦の碑が世界各地に建設されている ©NO MAN PRODUCTIONS LLC

「今すごくホットな映画」と紗倉まなさんがツイート

なぜ藤岡氏らが会見を開いたと思うかと問われ、デザキ監督は「(7人が)この映画を気に入っていないからではないか。人に見てほしくない、評判を下げたいと思っているからだと思います」と答えた。

「映画の中で、彼らの言葉をねじ曲げたり切断したりすることはしていないから、なぜ自分たちの支持者に見てほしくないと思っているのか不思議に思います。彼らが語る言葉は既にさまざまな記事で出ており、逸脱した表現をしているとは思っていない。どうして気に入らないのか。気に入るだろうと思っていた」

確かに「グロテスクなプロバガンダ」と批判しながらも、藤木氏は会見で映画内での「フェミニズムを始めたのは不細工な人たち」といった自身の発言について問われると、内容そのものについては「まったく改める必要もない」と回答。発言の一部を切り取られたことに憤っていると語っている。

しかしデザキ監督は「映画での発言について、意図と違う内容で映されているという不服や不満は現在のところ出てきていない」と言う。さらに「どんな記事も映画も100%客観的ではありえないが、彼ら(慰安婦否定派)の言い分を入れたという点でフェアだと思っている」。

デザキ監督は「グロテスクなプロパガンダ」ではないとし、こう主張した。

「最終的に私の結論がどういうものか、どうしてその結論に至ったかについては明快で、そのプロセスが分かるがゆえに『主戦場』はプロパガンダ映画ではないと思う。この透明性によって、観客が結論に同意することも同意しないことも自由にできる。映画を見て、それぞれの論点について観客自身が検証することを推奨している」

確かに『主戦場』が、これまでの慰安婦をテーマにした作品では叶わなかった、両論を取り上げた映画であることは事実だ。そして監督が導き出した結論は彼自身の意見に過ぎず、 誰のどの言葉をどう受けとめるかは1人1人に任されている。

意見を押し付けるのではなく考えるきっかけを与えてくれる作品であることは、作家でAV女優の紗倉まなさん(下記)をはじめ、これまで慰安婦について語っていなかった人たちにも鑑賞されていることからも分かるだろう。

5月30日の会見後にデザキ監督が公開した(※)YouTubeについては、映画出演者の1人である加瀬英明氏が代表を務める「『慰安婦の真実』国民運動」という団体のホームページ上で、即座に反論がなされている。監督の言葉には、今後も反論が来るかもしれない。そうなったらリアルでのバトルを続けていくつもりなのか。

「(反論合戦は)続けたくない」と、デザキ監督は言う。「私が話したことは明快だし、隠していることはないから」

岩井弁護士も承諾書と合意書に法的な瑕疵はないため「現時点では何よりも映画をたくさんの人に見てもらうことに集中したい」と語った。

※デザキ監督がYouTubeで反論を公開したのは5月30日ですが、出演者らの記者会見後ではなかったため、訂正しました。

20190611issue_cover200.jpg
※6月11日号(6月4日発売)は「天安門事件30年:変わる中国、消せない記憶」特集。人民解放軍が人民を虐殺した悪夢から30年。アメリカに迫る大国となった中国は、これからどこへ向かうのか。独裁中国を待つ「落とし穴」をレポートする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米5月住宅建設業者指数45に低下、1月以来の低水準

ビジネス

米企業在庫、3月は0.1%減 市場予想に一致

ワールド

シンガポール、20年ぶりに新首相就任 

ワールド

米、ウクライナに20億ドルの追加軍事支援 防衛事業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中