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慰安婦映画『主戦場』リアルバトル 「騙された」vs.「合意を果たした」

2019年6月7日(金)18時00分
朴順梨(ライター)

そして 藤岡氏および藤木氏と交わした合意書にも、「甲(監督)は本映画公開前に乙(出演者)に確認を求め、乙は、速やかに確認する(第5項)」と書かれていて、かつ両名とも承諾書を読んでいるため、彼らも商業映画になる可能性を知らなかったという事実はないと続けた。

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(右から)映画に出演するトニー・マラーノ氏(評論家)と藤木氏、ケント・ギルバート氏(タレント)、杉田議員、藤岡氏 ©NO MAN PRODUCTIONS LLC

「一般公開前に異議の申し立てはなかった」

では、なぜ出演契約にあたり承諾書と合意書の2通が存在するのか。

藤岡氏・藤木氏の両名は、承諾書の文面が「取材者側の権利のみをうたう偏った内容」であったため、第5項に加えて「本映画に使用されている乙の発言等が乙の意図するところと異なる場合は、甲は本映画のクレジットに乙が本映画に不服である旨表示する。または、乙の希望する通りの声明を表示する(第6項)」などの文面を監督と協議し、合意書を作成したからだと会見で明かした。

また藤木氏は2016年9月の取材以降、デザキ監督からの音信は途絶えていたのに、2018年9月30日になり突然「10月7日に『釜山国際映画祭』で映画が上映される」と連絡があり、「リークの恐れがある」などとして公開前に作品を見せなかったことが、契約違反の根拠であると示した。

これに対し、デザキ監督はこう言い切った。

「承諾書には『取材対象者はいかなる映像も公開前に見ることができる』という項目はないため、公開前に映像を見る権利があったという点では5名は争えない。合意書に署名した藤岡・藤木両氏には釜山国際映画祭の5カ月前に、彼らの出演部分の映像を送付している。第6項に即して彼らの発言が意図と反している場合、2週間以内に返事を頂きたい旨も同時に記した。

返事がなかったら不満はなかったと判断していいだろうと私は思った。藤木氏から返事はなかったが、藤岡氏からは『拝見して返事を差し上げます』と返信があった。しかしその後連絡はなく、問題はなかったのだろうと判断した。

2018年9月30日に映画祭について通知したら、藤木氏から映画祭前に見たいと返事があった。5月に出演部分を送っていたことを伝えると『迷惑メールに分類されているようなので再送してほしい』と要請があり、再送した。その後苦情や要求はなかった。

藤岡・藤木両氏は、一般公開前に8回あった試写会に招待されている。彼らが試写会を認識していたことは、5月30日の配布資料に招待状のコピーが含まれていたことからも明らか。もし藤岡・藤木両氏が発言が意図と反して使われたと言うならば、一般公開前に異議を申し立てることができたのに、彼らはしなかった。以上のことから、私は課せられた合意を果たしたと思っている」

【参考記事】言論バトル『主戦場』を生んだミキ・デザキ監督の問題意識

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