人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に安心な水にアクセスできる社会の実現へ
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西川町中岫(なかぬき)地区のアクアレスキューは既存の建屋(写真)をそのまま利用している
<バルブなど流体機器の総合メーカーとして、世界屈指の技術力を誇る株式会社キッツ。同社が開発した可搬式浄水装置「アクアレスキュー」が、日本や世界の水インフラの未来を変える>
持続可能な水インフラの危機
国土交通省の調査によると、全国の2割以上の水道管が法定耐用年数を超えており、その割合は今後も加速度的に高まっていく見込みだ。一方、老朽管の更新率は年間約0.6%に留まり、このペースでいくとすべての老朽管の更新に150年以上がかかるという。
そうした水道管の老朽化による水質悪化などを背景に、近年では特に給水人口の少ない地域に強靭で持続可能な上下水道を構築するため、「分散型システム」の導入検討が進められている。国交省もこうした設備の導入を支援する方針を打ち出した。
とはいえ、膜ろ過などの高度な浄水設備の導入には多額の費用が必要となるうえ、水道事業の原則は、利用者の料金で運営する独立採算制だ。
人口減少で水道料金収入が減るなか、水道事業に大きな予算が回せない──。「公衆衛生の維持」と「採算性」の板挟みは、多くの地方自治体が抱える共通の悩みとなっている。
山形県の中央部、月山の麓に広がる西川町。豊かな自然や清らかな水に恵まれたこの町も、やはりこうした問題を抱えてきた自治体だ。
西川町の人口は、この30年間で約9000人から半減した。広範なエリアに集落が孤立して点在するため送水管の総延長が長く、管の老朽化に加え、数多くの浄水拠点のケアも課題となっていた。特に深刻だったのが山間部に点在する「水道未整備地区」の問題だ。
同町では08年頃から浄水設備の更新に着手。町内8箇所の浄水設備のうち5箇所は更新が終わったが、給水戸数が少ない3地域は、予算承認の目処がつかず手付かずのままだった。
特に2つの地域については、従来の塩素消毒で水質基準こそクリアできていたものの、集中豪雨の際には水道水が濁ってしまうような状況だった。水が濁れば、休日であろうと夜間であろうと、職員が住民にポリタンクで生活用水を届けに走る。そうした状態がずっと続いていた。

住民の間には「ここに住み続けるためなら仕方ない」と半ば諦めムードすら漂っていた。しかし、町としてはどうにかして状況を改善し、地域の人々の生活の質を少しでも向上させたいという課題感を持ち続けていた。
それぞれの地域の給水戸数は10戸と3戸。極めて小規模なコミュニティのために、限られた町の予算で何ができるのか。行き詰まる状況を打破したのが、株式会社キッツが開発した可搬式浄水装置「アクアレスキュー」だ。
自治体の悩みに技術で応える

1951年に創業したキッツは、バルブ製品などの売上高やシェアで、世界トップ10にランクインする流体機器の総合メーカー。 配管内の水やガス、石油などをコントロールする「流体制御」をコア技術に、高品質な製品を一貫生産できる体制が強みだ。
そんな同社が、小規模集落での水質維持などの地方自治体が抱える悩みに対し、「水の技術で応えたい」という思いから小規模浄水設備の開発を開始したのは02年のこと。以来、進化を続けてきたアクアレスキューは、今や全国の多くの自治体で導入され、地域水源の安定供給や災害対策に貢献している。西川町も23年とその翌年に、企業版ふるさと納税などの制度を利用し、未整備だった2地域にアクアレスキューを導入した。
「以前は、取水地の流量に合わせてその都度現場で塩素の量を調整していましたが、アクアレスキューは運転もメンテナンスもすべて自動なので、山間部の浄水拠点に足を運ばなくてもいい。管理などは非常に効率化されました」
そう話すのは同町建設水道課の庄司耕太さん。わずか3名で町の水道網を守る庄司さんたちにとって、アクアレスキューは頼もしい味方だ。「導入前には、住民の皆様に集中豪雨のたびに大きな負担が掛かり、我々職員の対応も過酷なものでした。そうした負担からの解放も、現場の人間として感じる大きな効果。導入後の水質検査では、濁度が測定限界以下の0.15度以下へと劇的に改善し、昨年9月の集中豪雨の際にも濁水は一切発生しませんでした」と、導入の手応えを口にする。

キッツが挑むのは、「誰もが安心な水にアクセスできる日常の実現」だ。
自治体の浄水設備の更新において、例えば塩素消毒のみの施設に膜ろ過を追加する場合、新たな建屋や電源工事が必要になるケースが多い。対して、軽トラックでの運搬や標準的なドアからの搬入が可能なうえ、家庭用と同じ100V電源で稼働するアクアレスキューなら、従来の浄水装置が入る建屋がそのまま利用できる。キッツの試算によれば、小規模な膜ろ過式の浄水施設を新たに整備する場合に比べ、導入コストは半分以下に抑えられるという。

膜モジュールによる膜ろ過を基本に、水質に応じた除濁処理やUV処理などを用い、河川や井戸、プール、防火水槽といった水源から、厳しい日本の水質基準をクリアする安全な水をつくり出す。そんなアクアレスキューが救うのは、日本の地方自治体だけではない。
安全な水へのアクセスが制限される世界の途上国や大規模災害の被災地など、固定型インフラの構築が困難なあらゆる場所に、アクアレスキューは希望を運ぶ。一企業のプロダクトが、地理的・経済的制約を突破し、「誰もが等しく安全な水を享受できる社会」を再構築する。キッツの挑戦は、地域社会の持続可能な水インフラを守るための、力強く大きな一歩だ。
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