最新記事

太陽

過去70年に観測された10倍規模の太陽嵐が、2600年前に発生していた

2019年3月15日(金)16時41分
松岡由希子

過去70年に観測されたものの10倍規模の太陽風が発生する可能性がある SDO/GSFC/NASA

<通信システム、電力インフラなどに現代文明の中心的インフラに甚大な被害をもたらすおそれがある太陽嵐だが、過去70年の10倍規模の太陽嵐が2600年前に発生したことがわかった>

太陽嵐とは、フレアと呼ばれる太陽表面での爆発的現象によって生じる、高速・高エネルギーのプラズマ(電離気体)や荷電粒子、電磁波の流れである。70年ほど前から研究者によって直接観察されるようになり、人工衛星や地上の通信システム、電力インフラなどに甚大な被害をもたらすおそれがあるものだということがわかってきた。

たとえば、1989年にはカナダのケベックで太陽嵐による大規模停電が起こり、2003年にもスウェーデンのマルメで同様の事象が発生している。

紀元前660年に最大規模の太陽嵐が発生していた

では、人類が太陽嵐を直接観察し始める以前、いつ、どれくらいの規模の太陽嵐が発生していたのだろうか。スウェーデンのルンド大学の研究チームは、北極圏グリーンランドの氷床から採掘した氷床コア(氷の試料)を分析し、2610年前の紀元前660年に大規模な太陽嵐が発生していたことを明らかにした。

その研究論文は、2019年3月11日、学術雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で公開されている。これによると、紀元前660年の太陽嵐は、これまでに確認されたものの中で最大規模とみられる紀元後775年の太陽嵐を超えるものだという。

過去に発生した太陽嵐は、年輪の炭素14や氷床コアのベリリウム10、塩素36といった、毎年一定に堆積する化学物質の中に"記録"されており、これを分析することで間接的に太陽嵐を観測できる。これまでに、この手法によって、775年と994年に太陽嵐が発生したことが確認されている。

「ハイテク社会に深刻な影響をもたらす」

今回、ルンド大学の研究チームは、約10万年にわたって形成されたグリーンランドの氷床コアを分析し、紀元前660年あたりのベリリウム10をもとに、大規模な太陽嵐が発生していたことを明らかにした。また、氷床コアの塩素36のデータとベリリウム10とを合わせて分析し、この太陽嵐が非常に強いエネルギースペクトルを持つもので、過去70年に観測されたもののおおよそ10倍の規模であったことも示している。

研究論文の責任著者であるルンド大学の研究者は「今、この太陽嵐が発生したら、現代のハイテク社会に深刻な影響をもたらすだろう」と述べ、「太陽嵐から社会を守る対策を講じるべきだ」と警鐘を鳴らしている。

また、現時点において、太陽嵐にまつわるリスク評価は、過去70年の直接観測をベースとするものがほとんどだが、「今回の研究結果は、太陽嵐のリスクが過小評価されていることを示すものだ」とし、今回明らかとなった紀元前660年の太陽嵐を含め、直接観測の開始以前に発生した太陽嵐も考慮したうえで、そのリスクを再評価すべきだと説いている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

インドネシア次期大統領、8%成長「2─3年で達成」

ワールド

習主席「中国は常にロシアの良き隣人」、プーチン大統

ビジネス

中国EVのNIO、「オンボ」ブランド車発表 テスラ

ビジネス

ユーロ圏住宅ローン市場は「管理可能」、ECBが点検
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 7

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中